・超能力者パロ
・電波



「そっれー」

ドゴン、と臨也の手の平から炎の塊が飛び出し、数十メートル先にある的を燃やす。誰もが炎の発動に戸惑うなか、平然とした様子で教師からの課題をこなす臨也にクラスメイトから歓声があがった。教えを請いたいと臨也に群がる男女の歓声の輪を擦り抜けて、臨也の足は俺の方へと進められる。

「あれ、シズちゃんまだ出来ないの?」
「お前とは違うんだよ」

そう苛立ちを込めて呟けば、臨也は拗ねた様に俺に背を向けふわふわと火の塊を手で弄び始めた。「気が散る」と指摘しても俺の側から離れない臨也に苛立ちが深まる。

「……ちっ」
「念じることが大切なんだよ。魔法じゃないんだから、その握り締めている紙の媒体に思いを込めるの」

珍しく真面目な臨也の瞳がいつの間にか俺を見つめていて、思わず目を逸らす。全てを見透かすような臨也の目が俺は大嫌いだった。

「大体、思いってのは人によって違うんだろ?それにすら気付けないんだよ、俺は」
「…俺の場合は博愛だったけどなぁ。新羅は純愛、ドタチンは友愛だっけ?シズちゃんは何かなぁ。自己愛?なーんて」

冗談混じりにそれだけを告げるとふにゃ、と笑みを作り、再びふわふわと火の玉で遊び出した臨也をこっそり睨む。

ムカつくというか、悔しいというか。
俺の周りの友人達は(不本意ながら臨也も含めて)能力を上手く使いこなせている。それとは対照的に俺はというと、基礎能力でさえ発動することがままならない状態だ。

友人達はそんな俺に親身になって色々と指導してくれているし、そのお陰で僅かながら日々自分が成長しているのが分かる。そのことには勿論感謝もしているし、尊敬の念すら抱く。

だが、それと同時に俺の中には様々な感情が浮かび上がっていた。嫉妬、羨望、自己嫌悪。それらの感情がぐるぐると胸の中を支配する。呼吸をするだけでも心の闇は深くなり、友への信頼と嫉妬がせめぎあっている状況だ。

そんな思考を巡らせていると、手の平から大玉の炎が火炎放射のように放出された。

「ぅわ!」
「ははっ、凄い出来たじゃないか」

制御の効かないそれを臨也は楽しそうに見ていた。やっと臨也に一歩近付けたかと思うと同時に、炎の威力は弱まり段々と消えていく。

「誰のこと考えてたの?」

目をキラキラ輝かせながらそう問い掛けてくる臨也の返答に口ごもってしまう。特定の奴のことを考えていた訳ではない。ただ漠然と浮かび上がった感情について思考を巡らせていただけだ。

「知らね…、適当に…」

本心からの言葉だった。少なくともこの時まではそう思っていた。
少し前の自分の脳内を思い出す。臨也や新羅、門田に敬愛とも言える思いを抱いていた。それが僅かながらも、ドロドロとした醜い嫉妬の方がその思いに勝った瞬間に能力が使えるようになったのだ。
試しに今まで感じた敗北感を思い出すと、炎が手の平で踊り始める。

「今の静雄のか?」
「おめでとう!火炎放射、威力絶大だよ」

いつの間にか駆け寄ってきた新羅と門田は自分のことのように笑みを浮かべている。そんな中俺は一人笑えないでいた。

だって俺の感情は、俺の思いは。

「……、…愛憎?」


ぱちぱち


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