・来神組と世界の終わり
・モブが出てきます



「うん、やっぱりというかなんというか。見事僕たち以外に誰もいないね」

そう言いながら新羅が教室へと戻ってくるのを、何をするでもなくぼんやりと眺めていた。


何がどうしてそうなったのか分からないけれど、どうやら世界が終わるらしい。リミットは今日の23時59分。明日になったら何もかも全てがなくなる、らしい。まだ世界の終わりを経験したことがないからよく分からないけれど。まるで漫画のような、救いようのない現実だ。

「世界が終わる原因が隕石とかだったらシズちゃんが何とかしてくれそうなのにねえ」
「馬鹿か。隕石相手に俺が通用するわけねえだろ」
「わ、通用なんて言葉知ってるんだ。意外」
「てっめ…、本当に最後まで憎たらしい奴だよな。もしこれが普段だったら一発殴ってたぜ。くそ」
「…短気じゃないシズちゃんほど面白くないものはないなあ。ってドタチン、何ぼけーっとしてるの?」
「いや…、なんつーかよ」

俺と同じようにぼんやりとどこかを見ながら机に座っていた門田が首を傾げる。

「なんで、お前は俺達をここに集めたんだ?」
「えー?なんでって?」

けらけら笑う臨也がその場で楽しそうにくるくる回る。小学生かもしくはそれより幼い子供を連想させるその行為に果たして意味はあるのか。机にぶつかることもなく臨也はくるくると回り続ける。くるくるくるくる、元気なことだ。

その光景を、新羅だけが微笑みながら見ている。いや見守るといった方が正しいのか、これは。この二人の関係は未だによく分からない。

新羅はどうか分からないが門田の抱く当然の疑問は、確かに俺もずっと気になっていた。

今日で世界が終わる。学校も店も何も機能しなくなって、それならばせめて最後の日を家族と一緒に過ごそうと思ってたのに。朝、突然家のチャイムが鳴り、こんな日に一体誰が訪れるのだろうと警戒しながら出てみると、私服姿の3人が玄関先に立っていた。その顔は絶望するでもなく、普段通りのそれで。そして中心に立っていた臨也が、普段と何も変わらない口調でこう言い放った。

「学校に行かない?」

一瞬躊躇ったが、いつの間にか後ろにいたお袋がこんな状況下でも息子に会いにきてくれる友人達に「ありがとう」と頭を下げたのを見て、断るに断れなくなってしまった。

というのか恥ずかしいから直ぐにでも止めさせたかったというのが本音だ。それと口々に「気にしないでください」とか「友達なんですから」とか「僕たちも朝早くから連絡もなしに押しかけてすみませんでした」とか言っているあいつらに鳥肌が立って、早くこの場から逃げ出したかったのも事実。

着替えてくる、と部屋に戻る。その間お袋とあいつらが余計なことを喋らないようになるべく急いで着替えていると、幽がのそりと二段ベッドの下の段(ちなみに上の段は俺だ)から起き上がった。まだ眠いのか小さく欠伸をしながら、ぼんやりと視線を部屋中にさ迷わせて、着替え途中の俺へと落ち着く。

「どこか行くの…?」
「ちょっとな。迎えがきた」
「…ふうん」

着替えも終わり部屋から出ていく前に、とろんとした瞳で俺を見つめる幽に近付いて頭を撫でてやる。

「遅くならない内に帰ってくっから」
「彼女さん…?」
「まさか。臨也達だよ、ほらいつも話してる」
「あぁ。あの愉快な人たち」

愉快…、まあ愉快か。愉快なんて可愛らしいものとは到底思えないけれど、あながち間違いでもない。安心したのかほっと息をついて、誰が見ても分かるくらいに静かに微笑む。

「いってらっしゃい」
「おー」

幽の視線に見送られながら部屋を出る。あいつがあそこまで感情を表に出すのは本当珍しい。それほど遅くならない帰りに安心したのか。それもそうか。今日が最後なんだから不安になっても仕方ない。

それにしても彼女、か。結局一度も出来なかったな。キスももちろんそれ以上も何も出来なかった。あいつらは、少なくとも臨也はそういう面では俺より遥かに上だろう。経験的にも技術的にも。よし、それについてはもう何も考えないようにしよう。なんだか泣けてきそうだ。


そして今。

門田の言葉からして、臨也が門田と新羅を呼び出したらしい。俺のところに来たのは最後の最後だったということだ。こんな日にこんな所に俺達を集めて本当、こいつは何を考えているんだろう。

あれだけ回ったのに平衡感覚が狂うことも、気持ち悪くもならないのか平然とした顔で動きを止める臨也はやっぱり何かおかしい。

「理由、理由ね。うーん、どうしよ」
「やれやれ、理由もないのに僕たちを呼んだのかい?」
「別にいいじゃん。まだ昼前だしさ、夜まで帰れば問題ないでしょ?」

あははと笑う臨也に溜め息一つ。

死が怖いだとか、そういう考えは初めからない。俺一人だけがじゃなくて、世界中の人間が皆死ぬ。ここまで規模が大きいと恐怖よりも吹っ切れた感の方が強いというものだ。俺以外の奴らもそうなんだろう。さっきから、一向に暗い顔を見せない。

「さーて、どうしよっかな。何しようかなあ、……あ!そうだ」

一人遠足気分な臨也が、何か良い案が思いついたといわんばかりに大袈裟なリアクションを取る。悪戯を仕掛ける前の子供のように笑う臨也からは絶望なんかよりも、もっと厄介な感情が見て取れた。なんか、嫌な予感しかしない。

「学校をめちゃくちゃにしない?」

だから臨也が笑いながらこう告げた時も、思わず納得しかけてしまった。本来ならば何か反論する場面だったのだけれど、誰も臨也に反論しなかったし、もしかしたら世界の終わりを前に4人とも頭のネジが一本飛んでいったのかもしれない。ここまで考えて、はたと思う。

……俺達のネジが外れているのは、いつもか?





ぱちぱち


back




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -