・静雄と臨也


「ノミ蟲………のか?」
「うん………みたい……」
「……………か」
「え?……………?」

なんだろう。何か声が聞こえる。ゆっくり目を開くと、俺の顔を覗きこんでいる新羅と目があった。

「あ、起きた?おはよう」
「……おはよ…」
「んー、うん。顔色良くなってきたね。どうする?もう少し休む?」
「いや、大丈夫…今日はこのまま帰るよ。セルティが帰ってくるだろ?」
「おい」

突然耳に低い声が流れ込んできて、ぴくりと体が跳ねる。新羅の声より何倍も低いその声は、一番聞きたくなかったといっても過言じゃない声だった。

「シズちゃん」

どうして君がここにいるんだよ。そう言ってやりたかったけれど、すんでのところでどうにかその言葉を飲み込む。下手に挑発したところで、今の俺に勝ち目はない。負け戦と分かっていながら戦いに挑むほど俺は馬鹿ではないし、何より相手が悪過ぎる。

だからといって、下手に出るなんて行為を俺自身が許すはずもなく、睨むという手段でささやかな抵抗の意を示す。

「静雄、臨也は病人なんだから今は優しく…」
「こいつ相手に優しく?気持ち悪いこと言うなよ新羅」

全く酷い言われようだ。俺だってシズちゃんに優しくされたいわけじゃないし、別にいいんだけどさ。いや、割と本気で。

「帰る」
「そう?もう少し休んでいった方がいいんじゃないのかい」
「いいよ。それに、シズちゃんと一緒にいたら悪化しそうだもん」
「んだと…!」
「わー!静雄ストップストップ!!臨也もいちいち煽らないの!」

知らない知らない。もう知らない。いくら新羅の言うことでも聞けることと聞けないことがある。シズちゃんを見てるだけで込み上げてくる苛立ちを、なんとか新羅にはぶつけないように必死に堪える。そんな俺に気付いたのか、どうやら留めることは諦めたらしい。

「帰るんなら、門田くんかタクシー呼ぶよ。どっちがいい?」
「…歩いて帰れるよ」
「馬鹿。それは僕が許さないからね。門田くんも心配してたんだよ?君が随分べったりしてたから」
「まぁ、仕方ないよね」
「開き直っちゃって。分かった、じゃあタクシーで」

そう言い立ち上がろうとする新羅を、シズちゃんの手が制止した。お前は立たなくていいと言わんばかりに新羅の肩に手を置き、代わりに立ち上がったシズちゃんは俺を睨みつけて一言「帰るぞ」と呟いた。

「え、」
「送る」
「え、」
「2回も言わせんな」

そりゃあ何回でも言わせるさ。今、この単細胞なんて言った?送る?帰るぞ?それはつまり、えっと。

「丁重にお断りします?」
「言い回しがいちいちうぜえな。んだよ、別にこんなの初めてじゃねえだろうが。それにな門田から臨也が危ないから帰りは一緒に着いてやってくれってメールきてたんだよ」
「それを受け入れたわけ?」
「プリン奢ってくれる約束したからな」

なんて無茶苦茶な。新羅に視線で助けを求めるも、若干むすっとしたような顔を見せ、次の瞬間にはまたいつもと変わらない笑顔を見せていた。こいつもこいつで何を考えているのか分からない。

「そうだね。その方がいいかもしれない。今マフラーとか持ってきてあげるからちょっと待ってて」

そう言って居間から新羅が居なくなり、シズちゃんと俺の二人きりになる。

シズちゃん、どうして今日はこんなに優しいんだろう。優しいというか大人しいというか。いつもなら容赦なく拳の一つや二つ飛んできてもおかしくない状態だ。やろうと思えば、今直ぐにでも殺せるはずなのに。

もしかして、帰る途中にでも新羅の目が届かないところで殺されるんじゃないだろうか。何それ、十分ありえる。

「俺、まだ死にたくないよ」
「は?死ぬわけないだろ。お前は本当昔から…」
「え、何昔?前に何かあったっけ」
「……別に」

昔、はて何かあっただろうか。駄目だ全然思い出せない。商売に関係のない情報はほとんど頭の中から消している俺にとっては、特に重要な記憶でもなかったらしい。所詮その程度の出来事だったということだ。

「はい、臨也お待たせ」

白いマフラーを手に持ってきた新羅が、俺の首に丁寧にマフラーを巻いてくれる。マフラーからはふわりと新羅の匂いがして、少しだけ安心する。まあ絶対、口には出さないけれど。

「ありがと」
「うーん、本当調子狂うな。どういたしまして」
「おい、早く行くぞ寒くなる」
「分かってるよ。急かすなって。じゃあね、新羅」
「うん。お大事に」

手を振り見送る新羅に一度笑いかけ、先に出ていったシズちゃんの後を追いかける。俺の前を歩くなんて、本当こいつ苛つくんだけど。





ぱたん、と閉まった扉の向こうで臨也と静雄の声が聞こえた。出て早々喧嘩なんてあの二人らしい。

「せっかく、普通の友人みたいに甘えてくれたのになぁ」

『昔に戻ったみたいだ』

「……静雄のばーか」






「送ってってくれるんだから、一人で勝手にどっか行ったりしないでよ?」
「んなことするか」
「……、シズちゃんさぁなんで今日はそんなんなわけ?」
「門田に頼まれたからな。後プリン」
「そう」

それだけの理由でここまで優しくしてくれるとは思えないんだけどなぁ。ま、シズちゃんの頭の中なんて考えるだけ無駄か。気まぐれ、ってこてにしとおこう。なんかもう面倒くさいし。

「お前さ、具合悪い時くらい無理すんのやめろや」
「はぁ?いきなりどうしたの?ていうかなんで?何も無理じゃないし」
「はいはい、勝手に言ってろばーか」

………うーん?

わかりにくいけれど、一応心配、してくれてるんだよな。これ。どういう反応をすればいいんだろうか。

「おら、早く歩け。風邪悪化したら門田と新羅にキレられるの俺なんだからな」
「…分かってるよ」


なんとも、今日は不思議な日だなぁ。


(天敵同士でたまには休戦)





・来神組(昔話)


「うあー、怠いよー、帰りたいよー」
「まだ1時間目終わったばかりだろうが」
「朝から辛かったんだよ。さむさむ、新羅カーディガン貸して」
「いいけど、大丈夫?ちょっと顔赤いよ?はい」
「朝は別に大丈夫だったんだよ。でもちょっと学校きたら悪くなったというか」
「無茶するからさ。今日はもう帰れば?一人で帰れる?大丈夫?」
「えー、大丈夫じゃないかもー。新羅も家においでよ。俺一人で家に帰っても暇なんだけど」
「えー、嫌かもー。あ、でも風邪ひいたらセルティに看病してもらえ……、よし友人の頼みとあれば仕方ない。行こうじゃないか!」
「わーい」

「静雄くんも来るよね?」
「は、なんで?」
「じゃあ行かない?」
「なんで」
「どっち?」
「…新羅が行くなら行く」
「ちょっとシズちゃん一言言わせて。女子か」

「お前ら、堂々とでかい声でそんな会話するんじゃねえよ。先生来てんだぞ」
「門田くん。え?先生来てたの?ぜんっぜん気付かなかったよ。いつ?いつきたの?今?前から?ていうか何処にいるの?あ、いた」
「……何気に岸谷って酷いよなあ」
「ドタチンも学校サボって俺の看病してよー。ね?」
「いや、俺はただ注意しにだな…」
「門田も来るのか?」
「なんでシズちゃんは嬉しそうなのさ」
「だから俺は」
「げほげほ、ドタチンお粥作ってお粥。風邪の時はお粥って決まってるんだよげほげほ。ついでに夜、妹たちにご飯作ってあげてげほげほ」
「僕も風邪引きたいからお願い門田くんげほげほ」

「一応、確認しておく。…拒否権は」
「ないね」
「だよなぁ」

「先生、具合悪いんで帰ります」
「僕も付き添いで帰ります」
「…………」
「ほら、シズちゃんもなんか言わなきゃ、サボり扱いになっちゃうよ」
「今更だろ。あー、じゃあ…帰ります」
「ったく。すみません、じゃあ」


((こいつら、堂々とし過ぎだろ!))



「…あいつら相変わらず目茶苦茶だな。奈倉見てみろよ、先生の奴泣きそうな顔してるぜ」
「………あれは、」
「ん?何か言った?」
「や、何も」
「マジ何考えてんだかなぁ。あいつら絶対頭おかしいだろ。あ、門田は別な」
「分かってるっつーの」


(……臨也、あれ相当無理したな。なんでそんな状態で学校くんだよ絶対馬鹿だろ)

「……そんなにあいつらに会いたかったのか?…まさかな」




「死ぬー…ドタチンおぶって…」
「風邪くらいじゃ死なねえよ」
「シズちゃんは黙れ」
「大丈夫?カーディガンに鼻水だけは付けないでね」
「ねぇドタチーン」
「静雄にやってもらえよ」
「やだやだやだ!絶対いや!」
「俺だって嫌だよ殴るぞ」
「まぁまぁ、大人しくしてよ。ただでさえ僕たち目立ってるんだから」
「…ドタチーン……」
「………分かったよ」
「本当?やった。ドタチン大好き!」
「あはははは、僕の中で門田くんの株価下がったー」
「なんでだよ」
「………俺も下げた」
「だから静雄もなんでだよ」


(仲良し4人組で青春ごっこ)
・九十九屋と臨也


『で、そのまま静雄に送ってもらったというわけか』
「本当に、お前はどうやってそんな情報を掴んでるんだよ。帰ってきたのついさっきだぞ」
『知りたいか?』
「いい、いずれ自分でお前を探した時に直接聞く」
『その時がくるのを楽しみにしているよ』
「言ってろ」
『時に折原』
「何し」
「何さ」
『タイピングミスなんてお前らしくない。よほど辛いのかそれとも、静雄との交流がそれほどまでに刺激的だったのかな』
「お前には関係ないし、シズちゃんはもっと関係ない」
『仲良く出来て嬉しかったんじゃないのか?ほらほら、お兄さんに言ってみたまえよ』
「年上かも分からん奴に兄を騙られてもな」
『まだ俺の年齢すら掴んでいないと、自分で白状したな。いつになったら俺の正体を見つけてくれるのかね。まだ先は長そうだ』
「……今日はもう寝る」
『おっと逃げるのか?』
「違う」
『まあ、いい。俺はいつでもいるからな。また話がしたくなったらチャットにくればいい』
「あ、そう」
『時に折原』
「なに」
『お前は皆に愛されているな。少し羨ましいよ』
「別にそんなんじゃない」
『じゃあ気付いていないだけか?幸せ者だな、お前は』
「やめろ」

『はは照れるな照れるな。大丈夫だ、俺もきちんとお前を愛してや』
『おっと、いなくなったか』
『素直じゃないんだからな、全く』
『まあ、いい』
『最近の風邪は本当に怖いからな』
『お大事に、折原』



masquerade
(わたしとあなた)



匿名様で
『風邪ネタ 臨也総受け
オールキャラ』でした。


総受けということで色々なキャラを出してみました!

来良組、双子、青葉といった高校生組も出そうと思ったのですが、長さ的にとんでもないことになりそうだったので泣く泣くカットという…。

リクエストを受けてから書き上げるまで、長らくお待たせしてしまいすみませんでした。少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

ではでは、リクエストありがとうございました!




ぱちぱち


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