奈倉/波江/美影/春奈/蘭
ワゴン組/新羅/静雄
来神組/九十九屋



・奈倉と臨也


「じゃあ奈倉、例の件はこれでよろし……ぁ、くしゅっ」
『……えっと、風邪、ですか?』
「別に……あぇ、は、くしゅ!」
『なんでそんな女みたいなくしゃみ…まあいいです。じゃあ、あれ!これきちんとやるんで俺の頼みも聞いて下さいよ!本当、家の電話出なかったからっていきなり職場にまで電話掛かってくるとかマジ焦るんで!しかもまたあれ、役所の奴とか言ってるけど絶対嘘でしょう!?』
「正解。さすが回数重ねただけはあるねえ。電話一つで相手が嘘ついてるか見破れるようになったんだ」
『ぜんっぜん嬉しくないですからね!!』
「まぁ、あれだよ。俺に頼るだけじゃなくて、定期的に住居変えるとかさ、しっかり自衛もしなきゃねえ。……あー、駄目だ。なんか寒い。もう切るから後はよろしく」
『…あ、ちょっと臨也』
「なに。俺奈倉に呼び捨てされる覚えはな…」
『風邪、お大事に。臨也、…さんに倒れられたりなんてしたら、俺が困るんで』
「倒れるとか、俺はそんなに弱くないよ」
『中学ん時ちょっと風邪引く度に、死ぬほど辛そうにしてたのは誰だっつーの』
「え?今なん、……もう切れてるし。なんだよ、一体」


(主と犬で心配未満)



・波江と臨也


「波江さーん、波江ー?」

奈倉との電話を終え、部屋着のまま自室のある2階からリビングへと繋がる階段を降りる。いくらこの部屋が広いとはいえ、人間一人を探すのに手間取るほどの広さではない。右を見て左を見て、それでも波江の姿が確認出来ないことから察するに、どうやらまだ今日は事務所には来ていないみたいだ。

波江の作ったお粥か何かが食べたかったんだけど、いないならば仕方ない。自分で作る気にもなれないし、適当に冷蔵庫に入っている物でも食べようか。何か、調理しなくても食べられるものあったかな。

キッチンへ向かおうと方向転換したところで、ちょうど出勤してきた波江と目があった。よかった、ものすごくタイミングがいい。変装か風邪予防の為か、マスクを装着している波江に近寄ると、俺の顔を見てマスクを外そうとしていた手をぴたりと止めた。

そして一言、

「あらやだ」

開口一番それかと思えば、今度は露骨に嫌そうな顔をされた。何、それはどういう意味なの。俺別に波江にそんな顔されることなんて、今日はまだ何もしていない気がする。

波江の真意を確かめるべく口を開こうとすると、それよりも先に、呆れたような不思議な表情で波江が口を開いた。

「貴方、体調悪いでしょう。酷い顔よ。寝ていたら?」
「…心配どうも。若干寒気とくしゃみがね。いや、でもどうせ今日はどっかの馬鹿の尻拭いのために池袋行かなきゃいけないし、まぁなんとか」
「悪化させて私にうつしたりなんてしたら許さないわよ?」
「手厳しいなぁ」

そう言い放ち、つかつかと俺に向かって突進(そのくらいの威圧感があった)してきた波江は冷たい手を俺の額に当てる。そんな波江の姿に、腐れ縁の闇医者の姿が脳裏にちらついた。そういえば遠い昔、あいつにもこんなことをされたことがあったような気がする。

何秒間かお互い無言のままそうしていて、ようやく手が離れたと思うと同時に、ふうと短く溜め息を吐かれた。

「熱は今のところないみたいね。いいわ、座ってなさい。薬を持ってくるから」
「なんか今日の波江さんは優しいなー。ついでにご飯も作ってよ、作る気になれないんだ」
「……勘違いしないでちょうだい。勿論、お給料の他に看病代はいただくわ。それと明後日には誠二の参観日があるの。それまでに貴方にやってもらわなきゃいけない仕事と」
「あー、うん。ごめん、分かった。分かったから。とりあえず頼むよ。よろしくー」
「腹立たしいけど、仕方ないわね。体調を崩されても困るもの」

本当、いつもいつも一言余計だな。黙っていれば普通に良い家政婦なのに。家政婦じゃないか、秘書、良い秘書なんだけどなぁ。

波江の小さな背中を眺めつつ、ちらりと時計に目をやる。後2時間後には事務所を出なきゃ池袋には間に合わない。こんな体で、はたして大丈夫なのか。時間が経つにつれ、怠さが増してきているような気さえする。

このまま池袋に行って、もし万が一シズちゃんに見付かりなんてしたら、今の俺じゃあ逃げきれる自信がない。捕まったら待っているのは、病人相手でも容赦なく拳を振り上げるあの馬鹿の楽しそうな笑顔だけだ。嫌だな、まだ死にたくはない。


「何不安げな顔してるのよ。もう目障りね…。仕事終わったら先生の所に行って薬でも貰ってきなさい。点滴の一つや二つくらいなら打ってくれるでしょう?」
「………」
「何よ。貴方が静かだと気味が悪いわ」
「いや、なんか今日は本当優しいな、って」
「馬鹿言わないで」


(雇用者と秘書でたまには優しさを、)



・折原軍団(美影)と臨也


「あ」
「ん?」

戸を開いたところで、美影ちゃんたちとばったり出くわした。本当いつ見ても3人の格好は個性的で、周囲から1メートルくらい浮いている気がする。まぁ、俺が言えた義理じゃないけれど。

「顔、赤いわ」
「風邪か風邪か!じゃあ今なら確実に、惨たらしく、ぶっ殺せるってことか!!」
「あら、私が先にこの男を斬って隆の居場所を聞き出さなきゃいけないの。殺すのは、その後」
「あぁ、早く殺して殺して殺してええ!!」
「…大丈夫なのかい?その、熱とか」

暴走する蘭くんと、贄川春奈の様子を黙って観察していると、美影ちゃんがおずおずといった具合に声をかけてきた。この3人の中では一番まともなのかもしれないなぁ。お兄さんも妹のことを少しは見習えばいいのに。俺を見掛ける度に蹴り飛ばそうとしてくるなんて、本当どんな神経しているんだか。シズちゃんじゃあるまいし。そんな兄を持っているからこそ、妹がしっかりしているのか。それにしたって、ねえ?

「んー、大丈夫だよ。多分」
「痩せ我慢ね」
「だな」
「ま、ちょっと仕事だから。波江さんと喧嘩して事務所目茶苦茶に、とかはやめてね」
「一番壊しているのはあの女よ」
「前、苛立ったのかテレビ壊してたしな。しかも真顔で」
「残念だけど、2人の言う通りだよ」
「しっかり、波江に言っておかないとねえ…」

もういい加減、家から出ないとまずい。玄関先でたむろう3人の中を割って、目的の地へと向かうべく廊下を歩いていると、後ろから3人が口々に「いってらっしゃい」だとか「そのまま死ね」だとか言っているのが聞こえて、思わず苦笑してしまう。

どうして俺の周りは、こんな奴ばかりなのかなぁ


(リーダーと愉快な仲間たちでいつもの日常)



・ワゴン組と臨也


あ、ちょっとやばいかもしれない。早めに出てきて正解だった。

なんだか足元がふらふらしてきたし、体の様子からして明らかに発熱している。このままじゃ誰かにぶつかってもおかしくないな、と思っていた矢先、ドスンと誰かの背中にぶつかった。

「…あ?臨也か?」
「ぅえ、ドタチン?」
「俺らもいるっすよー」
「ども!イザイザ元気〜?」

振り返ったその顔はものすごく見覚えのある顔で、その横から2つの頭がぴょこんと顔を出す。

「ドタチーンー」
「その名前で呼ぶな!っていうか、抱き着くな!いい大人がみっともない」
「きゃあああ!えっ、えっこれはドタイザなの?兄貴攻めと、きゃああ!!」
「狩沢さん!公の場っす!自重自重!!」
「っと、私としたことが、ん?イザイザ?」

ああもう駄目だ。やばい、本格的にやばい。世界がぐるぐる回ってる。ドタチンにしがみついたまま動けないでいると、冷たい手が俺の額に当てられる。波江さんと同じ、もしくはそれ以上に冷たい手を黙って受け入れていると、狩沢が困ったように俺を見た。

「あちゃー、これは駄目ね。かなりあつい」
「大丈夫すかー?これからお仕事なんすかねえ」
「いや、これじゃきついでしょ。イザイザ頑張って、このままじゃあまりに無防備だよ」
「臨也、お前今日休めないのか?」
「…ドタチンが看病してくれるってんなら、休む…」
「俺なんかよりも、もっと良い奴いんだろ」
「誰…?俺ドタチンがいい…」
「我が儘言うな。遊馬崎、渡草呼んでくれ。大至急頼む」
「了解っす!!」


「渡草さん、遊馬崎っす!池袋の街中にて1名様お持ち帰りっす!天然生もの!!今すぐ迎えにくるっす!」


(旧友同士で心配以上看病未満)



・新羅と臨也


「っていうことで、奈倉くん後は自分でよろしく、だって」
『結局、あいつただの風邪だったんですか?』
「ん?心配してるの?大丈夫だよ。寝不足、栄養不足、貧血。それらがちょっと重なってね。寝れば治るさ」
『ふうん……、ざまあみろ、って言ってやってください』
「わかった。普段自分から臨也の話をしてくることなんて滅多にないくせに、あろうことか臨也は大丈夫かって心配してた、と伝えておくね」
『は、ちょっ、なん、きした』





「……ごめんよ臨也。少し電話が長引いてね。奈倉くんが分かったよ、だって」
「う…、ありがと」
「君が素直にお礼を言うなんて。そんなに辛い?」
「時間が経つほど、ちょっと……」
「ゆっくりしていきなよ。僕もセルティが仕事に行っちゃって暇してたんだ」

ドタチンたちの車に乗せられ連れてこられたのは新羅の家。着くなり俺の顔を見て、ソファーに寝かしつけたり、風邪薬らしきものやサプリメントを数種用意して俺に飲ませたりと、医者モードに入っている新羅を見て波江と喋っていた時に感じた懐かしさが再び込み上げてきた。

毛布に包まり、柔らかいソファーに身体を預けながら、ソファーにもたれ掛かるようにして座り俺の顔を覗く新羅を黙って見つめる。「どうしたの?」と言いたそうに首を傾げる新羅の手は、俺の額に当てられた。


「なんか、昔に戻ったみたいだ」
「なに?突然。うん…、熱もちょっとあるね。苦しいでしょ?寝ちゃいなよ」
「ん、大丈夫」
「じゃないからあんな顔していたんじゃないか。心配したんだからね全く」
「どんな顔?」
「泣きそうな顔してたよ?静雄に見つからなくてよかったね。無茶するのも良いけどさ、ね?」
「うん…」

薬の影響か、瞼が重い。五感も鈍くなってきた。まどろむ意識の中、新羅が俺の頭を優しく撫でる。

「たまにはゆっくり休みなよ。僕が傍にいてあげるから。僕にはこれくらいしか出来ないからね」
「ん、…別にいいよ…」
「そこは素直に甘えてくれよ。友達なんだから」
「友達、か。……うん。じゃあ、よろしく」
「うん!任された」


(患者と医者で友達日和)





ぱちぱち


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