・長編においてある
来神組兄弟設定で門誕
・仲良し兄弟


「ドタチーン!おっはよー!清々しい朝だねぇ」


世話の焼ける弟達をなんとか学校へ送り出し、自分も出勤しようと門に手をかけたところで動きを止める。声のした方を向けば、けらけらと笑いながらこっちに近付いてくる影が二つ。

それが狩沢と遊馬崎だと判断するのに時間はかからず、これはまた賑やかな朝になりそうだとこっそりと肩をすくめる。

「門田さんも今出勤なんすか?」
「あぁ、まぁな…。つーか狩沢は朝だってのに相変わらずテンション高ぇな」
「えへへー、ドタチンに褒められた」
「いや、今のは褒め言葉じゃないっすよ」

狩沢のハイテンションは今に始まったことじゃないが、なんだか今日はどこか浮わついているように見える。こんな朝から良いことでもあったのだろうか。

「何か良いことでもあったのか?」

家のすぐ側まで近付いてきた二人と合流し疑問を素直に口に出すと、狩沢の笑顔が輝きを増したように思えた。いつの間にか遊馬崎もそわそわしだしている。二人の姿に幼い子供を連想していると、少し勿体ぶるような間の後に狩沢が口を開いた。

「だって、今日はドタチンの誕生日じゃん!盛り上がっていかなきゃ損だよ損!誕生日おめでとね」
「俺からもおめでとうっす。プレゼントは昼食奢りって感じでどうですかね?安くて美味しいお店知ってるんすよ」
「えぇー。もっと豪勢に行こうよ!パァーとさ!」
「無理っすよ!明日に出る新作のゲーム狙ってるんですから、あまりお金は…」
「ゆまっちのケチー」

朝から大声でよくもまあ。少しうるさい気もするが、いつものことなので気にしない。ふう、と短く溜息を吐きながら、ぽりぽりと頭を掻く。

「あー…」
「うん?なになに、どしたの?」
「……ありがとな」

誕生日とはいえ、「おめでとう」という言葉を言われるのはなんだかこそばゆい。お礼を言うのは尚更だ。狩沢と遊馬崎を見ないようにそれだけを言うと狩沢がひゅ、と息を飲んだ音が聞こえた。

「ドタチン、かっわいー!!もう、ドタチンのとこの兄弟はドタチンも含めてなんで皆そんなに可愛いのかなー!」

きゃっきゃと一人ではしゃぎだす狩沢を見ないようにして、二人に歩調を合わせる。出勤時間まで余裕がある。ゆっくり歩いても釣りが出るくらいだろう。

妙な方向に話を展開させる狩沢とそれを制止する遊馬崎の声を聞きながら、ぼんやりと思う。

「…そうか、今日は俺の誕生日か」
「へ?」

きょとんと目を開いた狩沢と目が合う。はてさて、何か俺はおかしなことを言っただろうか。

「なんで忘れてたの?」
「朝、あいつらバタバタしてて忙しかったしな。そんなこと考える余裕なかっ」
「それ、おかしくない?」

唇を尖らせて思案顔の狩沢に遊馬崎も疑問の表情を見せる。何かおかしいことでもあるのだろうか。考えてみても分からないのだけれど。朝の状況を思い返してみる。いつものように臨也と静雄が喧嘩して、それをにやにや新羅が見ていて。遅刻ギリギリになって慌てて家から出ていって。

やっぱりいつも通りだ。

「…何がおかしいんだ?」
「だってシズシズとか、真っ先におめでとう!って言いそうじゃない?シズシズだけじゃなくてイザイザも、しんぽんも」
「あぁ、確かにそう言われればそうっすね。でも誕生日だって今気付いた、ってことは…そういうことっすよねえ」
「うーん。ミステリアス」

思案げな顔をする二人を横目に歩くスピードを速める。それに気付いていないのか二人してあーだこーだ話す姿に、もやもやとした何かが生まれる。

忘れてるんだろう、きっと。気付いたってあの年じゃ祝いの言葉を言うのも照れるかもしれないし、第一兄貴の誕生日なんていちいち気にしないだろう。当たり前というかなんというか。別にそれに対し、何かを思うこともないけれど。だって、ほら、仕方のないことだから。でも、ほんの少しだけ思うところもある。

「寂しいとか思っちゃったり?」

不意に真横から声がしてそっちを向くと、狩沢が不敵な笑みを浮かべていた。

「別にそんなんじゃねえよ」
「んふふー」
「どうすかねぇ。門田さん見かけによらず寂しがり屋ですし。弟離れが寂しいんじゃないっすか」
「だから違」
「ドタチン、仕方ないよ。3人も大人になるときがきたってことなんじゃないかな」
「笑顔で赤飯炊くのが男っすよ。門田さん、ファイト!」
「だから違うってんだろ、お前らは人の話を聞け!」

声を張り上げると、道を掃除していた婆さんがこっちを怪訝そうな顔で見てきて、咳払いをして誤魔化す。

「大丈夫、3人の分まで私たちが祝ってあげるから!」
「そうっすよ、門田さん」
「だから…いやもういいわ」








「ただいま」

予定より帰る時間が遅くなってしまい、帰ると家はもう真っ暗だった。今日は学校もあったし皆疲れて寝ているんだろう。風呂に入ったら適当に飯を食って寝よう。明日のあいつらの弁当は何がいいだろうか、そこまで考えて朝に言われた狩沢の言葉が頭をよぎる。

『寂しいとか思っちゃったり?』

「……まあ、寂しくないっちゃあ、嘘になるのか…」

ちらり、と時計を見る。午後23時半過ぎ。もうすぐ今日も終わる。

確かに弟離れしなくてはいけないのかもしれない。依存しているのは俺一人だ。あいつらはあいつらで意思を持って生活している。だから言葉一つ無かったくらいで落ち込む必要も寂しがる必要も全くない。

真っ暗な家の中を歩いていると、どうにも考えがネガティブな方向に引っ張られてしまう。胸の中のもやもやを消し去ろうと、冷たい水を求めキッチンへと向かう。足を進める度にミシミシという音がして、なんだか心の軋みを表しているようだ、なんて考えてしまう辺り色々と思考回路がおかしくなっている。いわばショート寸前。疲れていてまともな考えが出来なくなっているのだろう。

居間の戸を開け、キッチンへ向かおうとするとキッチンテーブルの上に小さいキャンドルがゆらゆらと灯っているのが見えた。そのほのかな明かりに照らされているのは、ぼんやりと分厚い本を読んでいる新羅の姿で。

「あ、おかえり。今日は遅かったね」

音で気付いたのか、振り向く新羅に俺はただ戸惑うことしか出来ない。寝てたんじゃないのか、とか、色々言いたいことはあるのだけれど口から出たのはつまらない事実だけだ。

「新米の発注ミスをカバーしてたら、遅くなっ…て」

ぱたん、と新羅が本を閉じたのと同時に、明かりに照らされた大きなホールケーキが視界に飛び込んできた。スポンジに塗り付けられたクリームにはところどころムラがあり、装飾として飾られたイチゴのいくつかはてっぺんではなく皿の上に転がっている。

「なんだこれ」
「誕生日パーティー跡地みたいな?あ、見た目はあれだけど味は食べれないこともないよ。期待はしない方がいいけどね」
「…誰が作ったんだ?」
「3人で、仲良くね。ああ、大丈夫。静雄が生卵を持っただけで何個も粉砕したとか、臨也が甘いのは苦手だからって砂糖入れないで生クリーム作ったりとか、3人でセルティにスポンジの作り方を教わったとか、そういうのは一切合切ないから」

けらけらと笑いながら新羅はソファーを指差す。そこには疲れたのか、互いに寄り添いながら一つの毛布で眠る臨也と静雄の姿が。

「京平帰ってくるまでは起きてるって言ってたのに、いつのまにか寝ちゃってたよ」
「お前は眠くないのか?」
「うん、正直眠いかな」

そう言ってふあ、と欠伸を漏らす。確かに目はとろんとまどろんでいて今にも寝てしまいそうだ。

「ほら、でも朝に言えなかったからね。せめて僕だけでもって」

欠伸のせいで滲んだ涙を拭いながら、とびきりの笑顔を俺に向ける。

「誕生日おめでとう。…まあ、正直な話。学校行く途中に気付いたんだけどね。で帰ったらケーキ作ろうって話になって。」
「なるほどな、そうか」
「ん?どうかした?」
「いや、こっちの話だ」

どうしよう。3人が俺のために作ってくれた、という事実にどうしようもないくらい幸せを感じている。本当、今日は1日感情の起伏が激しかった。今では朝の落ち込み具合が嘘のようだ。

ブラコンだなという自覚はある。これはきっと、本来親へ向けられるはずの感情のベクトルが全て弟たちへと向かっているのが原因だろう。普段家に居ない親よりも、共に暮らしている弟たちの方が何倍も大切に思えてしまうのは仕方ない。

「そこにあるおにぎり、静雄と臨也が京平お腹減ってるだろうから夜ご飯に、ってさ」

ケーキの影に隠れてまん丸な球体形のおにぎりと、綺麗な三角でのりで髪と目らしき装飾までしてあるおにぎりとが2つちょこんと置いてあった。

「丸が静雄で顔付きのが臨也か?」
「さっすが、当たり」
「臨也の奴、なんか色々と、なんというか」
「あはは、言いたいこと分かるよ。可愛いところあるよね、ってことだろう?」
「まあ、そんなところだ」

臨也作のおにぎりがじっ、とこっちを見ているような気がしたが気のせいということにする。変なところで器用さを発揮するなら、人間関係でもそれを生かしてもらいたいところだ。

おにぎりとケーキは風呂に入ってからゆっくりと食べよう。ケーキは一人じゃ食べきれる自信がないので、残して明日皆で食べればいい。眠いが、腹が減ってることにはかわりないし、せっかくの気持ちを無駄にしたくない。「じゃあ汗かいてるし、風呂入ってくるわ」
「僕眠いから先に寝るねー。おやすみ」
「新羅」
「うん?」

居間から出ていこうとする新羅を呼び止める。本日二度目の緊張の瞬間。少し躊躇いながらも口を開こうとして、新羅が微笑みかける。

「分かるよ、京平の言いたいことくらい」
「……ありがとな」
「喜んでもらえて何より」

それだけ言い残して居間を後にする新羅の後ろ姿を見送った後、ケーキを指でなぞる。クリームのついた指を口に含むと、口の中に甘い味が広がった。なんだ、美味しいじゃないか。


それにしても、お礼というものはどうしてこんなにこそばゆいものか。

苦笑しながらテーブルに目を移すと、臨也のおにぎりがこっちを見ているような気がした。


ぱちぱち


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