「デリくん怒った?」
「知らねえ。話し掛けてくんな」
「あははっ、ごめんごめん」
何がごめんだくそ兄貴。馬鹿兄貴なんて生温い称号は剥奪だ。このくそ兄貴。一発ぶん殴ってやろうか。
「でもデリくんがしたことは、結構大きいことなんじゃないかな?」
「見てたのかよ」
「うん。どうするのかなあ、って思ってたけど全部言っちゃったんだねえ」
「よく、止めなかったな」
「デリくんが頑張ってたから、それを見守るのもお兄ちゃんの役目かなって!」
変なところで兄貴面しやがって。なんなんだ本当、何を考えているのか分からない。
「臨也の奴に、静雄もお前のことが好きだって言いたかった」
「それじゃあ駄目だよ。ここまでやってきた意味がなくなっちゃうでしょ?」
「兄貴の勝手な考えで、あいつらを追い込むんじゃねえよ。後一回だけだろ?別にいいじゃねえか。もう許してやったって…」
「馬鹿でりっく。お前は何も分かってないね」
突然呼び捨てで名前を呼ばれ、戸惑いながら兄貴を見ると呆れたと言わんばかりに溜め息を吐いてみせた。
「…臨也くんはね、そんな事実なんかじゃなくて言葉が欲しいんだよ。それを今俺達に全部聞いて、ああこいつは俺のことが好きなんだと気付いたまま、好きだと言ってもらうこともなく終わるのは、何か違うんじゃないかなあ」」
なんでだよ。だってそれで二人は幸せになるんじゃないのか。
「……俺には、わかんねえ」
「静雄に似てでりっくは馬鹿なんだよ。俺も大概馬鹿だけどねえ。ここまできたからには、もう見守るしかないよ。俺も何もしないから見てあげよう?臨也くんの最期だ」
目の前にスクリーンが現れる。そこには血も陰惨な光景も何もない。この夢の終わりは何で彩られるのか。幸せ?不幸?希望?絶望?それを見届けるのが俺らの役目ならば、しっかりと見届けてやる。どっかりと腰を下ろすと、ちょこんと兄貴が隣に座り込んだ。
「さて、どうなるのかな。俺にも予測不可能だよ」
「……つーか兄貴、さっきから思ってたけどぶりっ子取れてる」
「え?サイケ何のことかわかんないなあ。デリくん夢でも見てたのー?」
「まぁ別にいいけどよ…」
目を覚ます。またいつもの夢だ。何年経っても、俺はあの頃のままの姿で夢の中にいる。そして今回も当然のように、臨也も夢の中にいた。
「シズちゃん、こんにちは。いや、久しぶりとでも言うべきなのかな」
夕暮れ時の教室。どこからかさわさわと風がはいっている。それは学生時代に何度も迎えた放課後の光景と何も変わらない。俺と臨也を纏う制服もあの頃と何も変わらない。
「8年振りだね、」
止まっていた時間が、
今動き始めた。
(終わりがはじまる)
→
ぱちぱち
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