そう言ってぐりぐりと頭を肩に押し付けてくるシズちゃんは、きっと俺が思っている以上に辛いんだろう。息がさっきよりも荒くなっている。俺は比較的性欲が弱い方だからシズちゃんの辛さはほんの少しも分からない。苦しんでいるシズちゃんと自分の恐怖心。守りたいのはどっちだ?

「シズちゃん…」
「なに」
「するなら、せめて家でがいい」

だから精一杯の勇気を振り絞ってそう告げた。ハロウィンの悪戯が、何をどうしてこうなったんだろう。もう自分でも分からない。

トイレなんて場所よりも家の方が安心出来るし、こう言っては女々しいけれど思い出にも残る。緊張で手が震えてきた。無言になったシズちゃんをちらりと見ると、頬を赤らめながら浅い呼吸を繰り返している。普通の人間じゃないから、性欲も普通の人間とは違うのだろうか。少し心配になりながらも黙ってシズちゃんを見続けていると、ごくりと喉がなる音が聞こえた。

「無理」
「はぁ!?なんで!俺頑張ったのに」
「何をだよ。家でも学校でも何も変わらないって」
「変わるよ。シズちゃん分かってな……痛っ!」

かり、と首を噛まれ、それ以上何も喋れなくなる。目の前にいるのは性欲に支配されたシズちゃんだ。俺の話なんかちっとも聞いてくれない。隣からは相変わらず馬鹿みたいに喘ぐ女の声が聞こえるし、もうなんなの。きっと今日は厄日だ。そんなことを考えていると、今度はさっきよりも強く首を噛まれ痛みに短い悲鳴をあげる。

「首、跡残っちゃうから…やめて…」
「あ?別にいいだろ。大体お前は誰の物だ?俺だろ?奈倉なんかの物じゃあねぇだろうが。それなのに最近あいつとばっかり帰ってよ。満足にキスも出来やしねえ」
「なんでそこで奈倉が出てくるのさ…」
「嫉妬だ、嫉妬。それとこれはお菓子をくれねえ手前への悪戯だ。ハロウィンだもんな、悪戯していいんだろ?拒否権はねえぞ。隣の馬鹿共にお前の声聞かせてやれ」

制服の下から手を入れられ、熱を帯びたシズちゃんの手が体をまさぐる。ここで止めないと本当に取り返しのつかないことになる。なんとしても逃げなければ。頭が軽いパニックを起こしかけていると、それを遮るかのようにシズちゃんの指が胸の突起を引っ掻いた。かろうじて声は抑えられたけれど、突然の刺激に体はどうしようもないほどビクビクと震えている。

そんな俺の反応を見逃すわけもないと言わんばかりに、体をひたすら撫で回された。時々突起を攻められて、その度に反応する体が恨めしい。シズちゃんの手に爪を立てても、手は止まることなく俺の体の上を動き回った。段々と息が乱れてきた俺に、シズちゃんは馬鹿にしたように笑いかける。

「なんだよ。お前だって興奮してんだろうが」
「…ほんっと嫌い!大嫌い!シズちゃんの馬鹿!離せよ!教室に戻る!!」
「ヤることヤったらな」
「最低!もう口利いてあげな…、うむ…!?…ふ……んく、…や、らって…んぁ…」

口を開けた瞬間、噛み付くようにキスをされた。慌てて口を閉じようとしたけれど、それよりも早くシズちゃんの舌が入ってきて、成すがまま口内を舐め回される。口を離そうとすると更に深く貪るように舌を絡ませられ、目の前がちかちかした。

お互いの唾液でぬるぬるになった舌を吸われ噛まれ。激しい口づけに、たらりと唾液が顎を伝い落ちる。溢れるくらいならと、こくりと小さく喉をならしながら飲み込んでみるもシズちゃんと俺のが混ざっていると考えると妙に恥ずかしくて。そうやって躊躇っている間にも、シズちゃんは舌を絡めてくる。

ダメだ、気持ち良くて頭がふわふわする。

もう流されてもいいかな、と思う自分がいてそれは駄目だと必死に理性を働かせる。初めてが学校のトイレなんて、どんなギャクだ。

「気持ちいい…?」

やっと離れたシズちゃんを見ることも出来ず、口端からだらしなく唾液を垂らせたまま肩で息をする。目の前には妙な色気をかもしだすシズちゃん、耳には自分の呼吸と未だ続く隣からの喘ぎ声。もう頭がおかしくなりそうだ。

「くる、しい……」
「いいんだよ、それで。…俺はお前のに触りたい」

バキン、という音が下からして、恐る恐る見てみるとベルトが壊されていた。抵抗する暇もなく、シズちゃんの手が制服のズボンの中へと入っていく。

「シズちゃん、だめ!それだけは…待ってってば!」
「ここまできたんだから覚悟決めろって、」

ズボンの中じゃ飽き足らず、下着の中にまで侵入してこようとする手を、両手で必死に止める。でも俺なんて力ではシズちゃんに全く敵わない。ふうふうと息をするシズちゃんの手が、俺のそこに触れて。

「っ、あ、う、やだやだっ!ほんと、だめ…!ひ、な、奈倉ぁあああぁあっ」


「うわああぁあああ!!」

バン!と大きな音がして、トイレの個室の戸が開かれる。いつの間に侵入したのかと疑問に思う前に、奈倉が持っているバケツに目がいった。重たそうに両手で持っていることから、中には大量の水が入っていることが分かる。

突然の部外者の登場に驚いて目を見開いたシズちゃんは、その正体が奈倉だと気付いた途端憎々しげに奈倉を睨みつけた。奈倉は嫉妬の対象であり、今はそれに邪魔者というレッテルが追加されている。ビキビキとシズちゃんのこめかみに青筋が浮かんだ。

「てめえ、なんの真似だ。殴られる覚悟は」
「平和島!と、トリックオアトリート!」
「はあ?」

突然の奈倉の言葉に気の抜けた返事を返す。俺も俺で奈倉がこれから何をしでかすのか全く見当がつかなかった。それでも何か策があるのか、奈倉はシズちゃんを真っ直ぐ見つめている。

「…お菓子くれなきゃあ、っらあっ!」

声と同時にシズちゃん目掛けて中の水がぶちまけられ、見事に頭から水を被る羽目になっていた。俺まで水が飛んできたが、頭から上靴まで全身水浸しになっているシズちゃんとは比べものにならない。突然の奈倉の行動に頭がついていけてないのか、完全に動きを止めたシズちゃんの横から奈倉が手を伸ばしてくる。

「臨也!」

差し出された手を反射的に握ると、体が起こされ個室から逃げ出すことが出来た。それだけじゃなく、奈倉は俺を何処かへ連れだそうとしているようだ。もちろん俺の手を離すつもりはないらしい。ようやく我に返ったシズちゃんが後ろで何かを叫んでいるが、トイレから逃げ出した俺達を追い掛けてはこなかった。あんなに濡れて、そしてあの高ぶりを収めない限りシズちゃんはこのトイレから出てこれないだろう。俺はようやくあの魔の手から逃げることが出来た。

授業中の静かな廊下を走って、適当な空き教室に入る。奈倉は走ったせいかぜえぜえと荒い息を繰り返し、俺は俺で、はあはあと静かに呼吸を整えていた。

もう少しで完全に食べられるところだった。一体奈倉はいつからあそこに隠れていたんだ?そんな俺の疑問に気付いたのか、未だ荒い呼吸のまま忌ま忌ましげに俺を睨みつける。

「お、お前が、守れって俺に言ったから、だから」

確かに、シズちゃんをからかいに行くから護衛を頼みたいとは言ったけれど。あれはただの冗談で、そもそも奈倉はシズちゃんから逃げたじゃないか。

「でも、奈倉さ、」
「言いたいこと、分かる。あん時は逃げたけど、気になってこっそり見てたらなんかトイレの中に連れてかれてっし。聞き耳立ててたら、平和島が臨也を襲ってるし」

なるほど、命令に忠実なのはいいことだ。「いやだ」と反抗するくせに、結局最後にはいつも俺の言うことを聞いてくれる。

「いざ入ったら個室の戸開いてて平和島の背中見えたからかなり焦ったけど、俺に全然気付いてないし。逃げたかったけど、臨也に命令されたから…逃げるに逃げられなかったし。」
「助かったよ、ありがとう」

今日だけは素直に礼を言ってやる。もし奈倉が助けに入らなければ、ずるずる流されているところだった。冷静になって考えてみる。そもそもシズちゃん、あの場でヤったとしてゴムは持っていたんだろうか。それに後処理は。多分シズちゃんだからそこら辺何も考えてなかったんだろうな。

礼を言った途端静かになった奈倉は、顔を真っ赤にして体育座りをしだした。

「あんまり、平和島には無防備な姿見せない方がいいですよ」
「へ?なんで」
「なんでも!」
「んー?それにしても奈倉君は興奮してないんだねえ」
「止めてください!俺は生粋のノンケだから!そりゃあ、隣からの喘ぎ声にはちょっとびっくりしたけど…」

なんにせよ、助かったことにはかわりはない。ほっと胸を撫で下ろすと同時にさっきの光景が甦る。『家でならいい』。シズちゃん、この言葉覚えているんだろうか。覚えていられたら、今日一日シズちゃんから全力で逃げなくちゃいけなくなるんだけど。

「後、臨也、さん。首さすがにまずい」
「首、あ」

今度は俺が赤くなる番だ。噛まれ舐められ、くっきりと跡が残っているんだろう。ちらちらと盗み見るように俺を見る奈倉の視線さえも、羞恥心を煽る。だから跡をつけられるのは嫌なんだ。こんなんじゃ教室に戻れないし、誰にも会えない。もういやだ。

シズちゃんなんて、本当大嫌い!





「岸谷、なんか嬉しそうだな」
「まあねぇ。門田君はご機嫌斜めかい?」
「まぁ、斜めっつーか。なんで俺達が授業サボったあいつら探さなきゃいけないんだ?」
「それが僕らの役割だからね」
「嫌な役割だな」
「そう?授業サボれるから別にいいじゃないか。それにしても臨也と静雄どうなったかなあ」
「なんだ、あいつら何処にいるのか知ってるのか?」
「ううん。何も?ただ、今大体どういう状況にあるのかは分かるよ」
「どんなだよ」
「実はね、Trick or Treatだなんて言われるから静雄にお菓子を渡したんだけど、そのお菓子にはね」


HAPPY HELLOWEEN
Trick or Treat!!

ぱちぱち


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