・来神
・臨也視点
・奈倉の頑張り物語



「Trick or Treat!ドタチンお菓子ちょうだい!」
「……何も持ってないぞ」

10月31日ハロウィン。
別に食べたいわけじゃないけれど、一人静かに本を読んでいるドタチンに、後ろから抱き着きお菓子をねだってみる。予想通り嫌そうな顔でしっしっとあしらわれた。ドタチンひどい。

「ないなら悪戯を受けてもらわないとね!」
「何すんだよ」
「何しようかな。ねえ、何してほしい?」
「俺の前からいなくなってほしい」
「ドタチンのそういうところ大好き」

つまらないなあ。新羅も新羅で「Trick or Treat?高校生にもなってハロウィンなんてね。まぁ、僕はこんなこともあろうかと、チョコにスナックに飴、何でも揃えているよ。そして僕から君へTrick or Treat。ただし、君の持っているカカオ80%のチョコレートはお菓子とは認めないからそのつもりで」とかなんとか言われたし。お前も十分楽しんでいるじゃないか、と反論する前に脇腹をくすぐられたのは何分前だったか。今思い出しただけでも腹が立つ。あの馬鹿眼鏡。

ドタチンはドタチンで本を読むのに夢中で全然構ってくれないし、本当つまらない。なんか今の気分的に、ドタチンと新羅を足して2で割ったくらいの奴と絡みたい。そんな奴が俺の周りに一人もいないことは自分でも分かっているけれど。所詮無い物ねだりだ。

「いいよ。別に。シズちゃんのところ行ってくる」
「喧嘩すんなよ」
「分かってるよ。ドタチンのばか。大嫌い、新羅に悪戯されちゃえばいいんだ」
「あー、そうだな」

絶対俺の言ってることまともに聞いてないよね。本当もう知らない。新羅が「門田君、絶対お菓子とか持ってきてなさそうだから悪戯仕掛けてやるんだ」と楽しそうに言ってたのも教えてやらない。

冷たいドタチンよりも、すっかり俺に惚れ込んでいるシズちゃんの方が絶対構ってくれる。教室にはいないみたいだけど、はてさて何処にいるのだろうか。




少し廊下を歩いているとシズちゃんではなく、奈倉が前から歩いてきた。俺に気付いて進行方向を前から今来た道へと変える奈倉の手には、綺麗にラッピングされたマフィンやシュークリームが握られている。市販のお菓子より何倍も美味しそうだ。

「奈倉君」
「俺は何も聞こえません。今日くらい女の子と交流させてください。お願いします」
「えー、いやかもー。ていうか、やっぱりそれ女の子から貰ったんだ?いいなあ、羨ましいなー」
「あんたには平和島がいるじゃねえかよ!マジ勘弁してくださいって!!今日ぐらいいいじゃないっすか!ほら、最近あれ!あの仕事頑張ったし!」
「それとこれとは別だよねえ」

いや、別に欲しくないけどね。お前が持っているから奪いたくなるんだよ。自分でも最低だとは思うけれど、奈倉なら別にいいかという結論に落ち着く。

今奈倉が歩いてきた道の先には3年生校舎があるから、なるほど先輩から貰ったのか。まあ、見た目は普通のチャラそうな今時の高校生だしな。モテてたとしても違和感がない。

「何、なんで絡んできたんすか」
「今から俺、シズちゃんからかってくるからちょっと護衛をね」
「絶対嫌です」
「ひっどいなあ」
「もう俺からトリックオアトリートで、悪戯じゃなくていいんで、今日だけ自由にさせてください」
「残念。新羅に断られた可哀相なカカオ80%チョコレートがあるんだ。はい、あげる」
「ちきしょう!」
「あはは、最近口悪いよね。あ、シズちゃん」
「マジか!」

シズちゃんの名前を出しただけで逃げやがった。あのヘタレめ。でもシズちゃんを見つけたのは本当だ。トイレの前でこっちを睨んでいる。この調子じゃ奈倉と一緒にいたところ見られちゃったかな。ああ見えて変に嫉妬深いから嫌になる。

シズちゃんと何秒間か見つめ合っていたら、無言で手招きをされた。どうやらこっちに来いということらしい。何を言われることか。キレられるのは嫌だなあ、なんて思いながら穏便に済ませる言葉を考える。……面倒になったら「君には関係ない」でいいか。

「何、シズちゃ」
「とりっくおあとりーと」
「へ?」

シズちゃんの言葉の意味が分からなくて数秒間、頭をフル回転させる。トリートオアトリート。お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ。そうだ、俺はこれを言おうとしてシズちゃんを探して、というか俺今奈倉にチョコをあげたよね。もうそれしかお菓子持ってなかったんだけど。

「持って、ない」
「だろうと思った。今あげてたしな」
「う…」

なんか一本取られたようでむかつく。不利になるのなら、構ってもらっても面白くない。シズちゃんは新羅とドタチンの代わりだったわけで、別にシズちゃん自身に構ってもらいたかったとかそういうわけじゃない。こことっても重要!

そろそろ次の授業も始まるし、もうシズちゃんに用はない。とっとと教室に戻ろうとしたところで、腕が強い力で引っ張られた。本当一瞬のことでろくに抵抗する暇もなく、そのままトイレの中に連れていかれ、洋式の便器に思いっきり投げつけられる。俺のことを物とでも思ってるんじゃないだろうか。蓋が閉まっていたのが不幸中の幸いだ。それじゃなかったら大変なことになっていた。想像もしたくない。

「ちょっと、ねえ。いきなり何…むご」

抵抗しようと言葉を発した瞬間、手で口を塞がれる。ガサガサした大きい手で塞がれているせいかどうにも息苦しい。何をされるのか、少し分かってしまう自分を恨めしく思い抵抗を諦める。どうせこんな状況ですることといえばキスぐらいだろう。大体、俺達はまだキスくらいしかしたことはないんだし。下手に抵抗して殴られるよりは、大人しくしていた方が全然マシだ。いや、まぁ抵抗らしい抵抗なんて今までしたことないのだけれど。

「ちょっと黙ってろよ…?」「……んぅ」
「よし」俺が珍しく素直にしているのに手を離す気はないらしい。キスが目的ではないのだろうか。だったら一体何が。無言に包まれたトイレで大人しくシズちゃんを見る。どこか切羽詰まったような表情で、少しだけ息が乱れている。本当どうしたんだろう。別にキスくらいいいのに。今更遠慮なんて無意味だし、正直、ほんの少し物足りない。

チャイムの音が聞こえ、それに耳を澄ませる。もう授業始まっちゃったじゃん。本当何したいの、シズちゃん。溜め息も吐くことの出来ない中、ただひたすら黙っているとチャイムに混ざって何か小さな鳴き声が聞こえてきた。さっきまで気にも留めていなかったのに、一度気付いてしまうと気になって耳を澄ませてしまう。この音はなんだろう。チャイムが鳴り終わったと同時に、その音の正体がリアルに耳に届く。

「ぁ……ふぁっ、あんっ、も…もっとぉ…」


…………これは。

何これ喘ぎ声じゃないか、っていうか何女子トイレでヤっちゃってるの?馬鹿なの?ここ学校っていうか、今授業中っていうか。え、もしかして俺を喋らせないようにしているのは、シズちゃんただ喘ぎ声が聞きたかっただけ?そういえばトイレの前にいたよね。一人でずっと聞いてたの?っていうか。

「むー!んんー!」
「んだよ…、っせえな……」
「ん!んんん!!」

何か膝に当たってはいけないものが当たっている。固いのに柔らかいぐにぐにとした感触は、間違いなくシズちゃんのあれだ。オブラートに包むと、シズちゃんの息子さん。でも固いってことは、もしかしていやもしかしなくても、こいつ勃って、る?

尚も騒ぎ続ける俺に苛立ったのか、はたまた興奮したのか、シズちゃんはぐいぐいと体を押し付けてきた。逃げようにも便器が邪魔をして逃げられない。

「うー…」

これは絶対絶命な気がする。狭い個室でシズちゃんと二人きり。隣からは壁越しに喘ぎ声。興奮して俺に性欲の塊を押し付けてくるシズちゃん。どうしよう、どうすれば逃げられる。救いは個室のドアが開いてあることだ。隙をついて逃げられるかもしれない。問題はそのタイミングだ。このままだったら間違いなく犯される。

「怖いか…?」

こくり、と頷く。ここは素直にしていた方がいいだろう。素直な俺の反応に何を思ったのか、口に当てられていた手を取ってくれた。そして辛そうに長く息を吐きながら、額を俺の肩にこつと当ててくる。

「どうしてもか?」
「……どうしても。怖いものは、怖いし…」
「分かってるんだけどよ、ちょっとこの状況は、やばいっていうか…理性が」

理性がってなんだよ。俺のために耐えてくれよ。本当、最悪なタイミングで会ったものだ。今なら逃げられるかな、と思ったけれどぐりぐりと当てられているシズちゃんの息子さんをどうにかしないことには何も始まらない。なるべくなら刺激はしない方がいいだろう。やっぱり大人しくしてるしかないんだ。

「一回、抜いたのに、お前見たらまたなんか…」
「そんなこと言われても俺、知らないよ……」
「…悪戯代わりに、いいだろ?少しくらい……最後までやんねえから…な?」
「え、何なんで顔近いの?ちょっと、やだやめてっ……っひぅ!」

べろり、と首筋を舐められ、思わず出た声に恥ずかしくなって唇を噛む。嬌声に性欲を煽られたのかもう一度首筋を舐められた後、ちゅ、ちゅ、とわざと音をたてながら何度も何度も首元にキスをされた。その度に体が小さく跳ねるのを必死で隠す。感じてなんか、いない。

「誰か、くる」
「授業中だし誰もこねえよ」
「隣に聞こえちゃうって」
「あいつらも夢中だろ」
「でも、」
「しつけえな…。もし誰かに見付かったら、そいつぶん殴って記憶飛ばしてやるよ。だから、な?臨也…」
「み、耳元で名前呼ぶな…!」

耳にシズちゃんの熱い息がかかっただけで、体がぞくぞくする。もう恥ずかしさに耐え切れなくなって、顔を下に向けてシズちゃんから顔を隠した。多分、今俺の顔は真っ赤で情けない顔をしているんだろう。そんな姿をシズちゃんに見られてると思うと、もう恥ずかしくて死にたくなる。

「あー…、くっそ……やばい。…可愛い」



ぱちぱち


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