・来神+派生
・臨也視点
・まど☆マギパロ



魔女に攻撃された足が痛い。腕が痛い。頭が痛い。
全身が激痛で支配されている中、最後の力を振り絞って繰り出した攻撃は剣を弾かれ呆気なく終わった。ぐさり、と地面に刺さった剣を眺めながらその場に崩れるようにして倒れ込む。体力はもう完全に無くなり、意識も朦朧としてきた。

「俺らと契約すれば、臨也は助かるぜ?お前はそれだけの力を持ってる」
「俺が…、でも俺は…」
「じゃあ臨也君が死ぬのを黙って見てるの?臨也君助けて世界の救世主になるか、臨也君との約束守って臨也君も世界もぜーんぶ見殺しにするか。…俺達としては前者の方が良いと思うけど」

さっきまで居なかったサイケとデリックが何かをシズちゃんに伝えているのが見えた。声は聞こえるのに、ぼんやりとした頭じゃそれがどんな意味かを理解することが出来ない。
でも何となく、分かった。分かってしまった。

ちらり。俺の方を見るシズちゃんの表情が、哀れみを苦しみを戸惑いを怒りを孕んでいる。
俺は何をしている?今直ぐに立ち上がって魔女を退治しなければ。この夜を終わらせなくては。彼を不安にしてはいけない。その為に俺は全てを捨てて戦ってきた。魔女を殺す罪悪感にも打ち勝った、一人で戦う孤独感にも打ち勝った。

それなのにどうしてだろう。立ち上がろうにも足が震える。地面と一体化したかのように起き上がることが出来ない。

「…なんでだよ……っ」

情けない自分の身体に悪態を吐くが、一向に起き上がれる気配がない。声力すらも微かなもので、あっちにはこちらの声は届かないだろう。
悔しさに歯を食いしばると、脇腹に強い衝撃を受けた。魔女から伸びた触手が強度を増し、高い位置から振りかざされ俺の痛覚を何度も刺激する。

「臨也!!」
「あーあ、どうすんだよ。あれ、死ぬぞ?」
「なんでっ、お前らは!助けられねえのかよ!!なんで俺なんだよ!!」
「だから静雄君に頑張って貰うしかないんだってば。俺達じゃどうしようもないもん」
「どうしようもない、って何もしてねえじゃねえか!!助けろ!!助けてみやがれ!あいつは一人で戦ってきたんだろ!!手前らは契約するだけして放置か!?」
「うるっさいなあ。そっくりそのまま返すよ。じゃあ君が助ければいいじゃん。なんで俺達なわけ?いやだよ、面倒くさい」
「サイケ、お前色々と黙れ」

痛い、痛い。でも、シズちゃんがあの時に感じた痛みにはまだ到底及ばない。
今頑張らなければ、幸せな未来へ行けない。約束を叶えられない。
それだけが心の支えで、生きる理由だった。

「わ…?」

突然、浮遊感に包まれる。何が起きたのか現状を把握しようとして、思考回路が行き詰まった。
魔女の触手が足に絡みつき、身体が宙へと持ち上げられる。地上から数メートルの高さまで持ち上げられ、そのまま触手の動きは止まった。ちら、と地を見る。落ちたら、ただでは済まない距離だ。瀕死の今では死を覚悟しなければならないだろう。

「臨也ぁあ!!」

シズちゃんの怒声が耳に届いた。喧嘩の時に聞いていたような怒りは感じず、純粋な心配の念が感じられる。
その声を聞いた瞬間、今までの生活の記憶が頭の中に溢れ、思わず涙が一つ零れた。
触手が力を抜けば、俺は地に真っ逆さまに落ちる。そうすれば彼はどうなるんだろう。破綻された世界に残された彼はどう。

「でどうすんだよ。静雄」
「っだから…」
「優柔不断だなあ。これは君の選択だから自由に選んでいいけどさ、時間制限は考えなよ?臨也君、今でも十分危ないんだから」

痛い。苦しい。
シズちゃんの前で死にたくないけれど、たぶんきっと俺の願いは叶えられない。無様に殺される俺を見たら、この世界のシズちゃんはきっと俺のことを忘れない。俺という存在が居て、そしてその存在が目の前で死んだという事実がシズちゃんの中に残るのだろう。それはとても辛いことだ。

だって。そうなってしまえばシズちゃんの中の俺は、今まで一緒に喧嘩したり生活してきた折原臨也ではなくて、今ここで死んでしまうただの物体に成り下がる。生きている時の俺よりも、死んだ後の俺の方がずっと記憶に残るだろう。

出来れば助けて欲しい。

誰に助けてもらいたいかなんてことは考えない。誰でもいいから、俺を、俺達を助けてほしい。例えそれがもう、手遅れな願いだとしても。


「………ったよ」
「…あ?」
「……わかった…」
「分かったって何がー?」

「…お前らと…契約、する」

力無く頷いたシズちゃんを見れば、言葉なんか聞こえなくてもあいつらと契約したことなんて直ぐに分かった。彼を囲むあいつらの醜い笑い声が耳元でした気がして、強く奥歯を噛み締める。

突如、光に包まれた世界は何度も何度も何度も何度も見たことがあるもので、もう何も感じることはない。覚醒したシズちゃんが力を持って魔女を倒す。一切の手加減もなく、俺を殺そうとしている相手への殺意のみで魔女に襲い掛かる。
魔女から噴出された赤くドス黒い液体が、綺麗な黄色の髪を濡らした。色彩の暴力。その内、全身血まみれになったシズちゃんにようやくある感情が芽生えたけれど、脱力感に追いやられる。

触手の拘束から解放された身体は、淡い光に包まれながらゆっくりと地に降ろされる。そして、俺を魔女から助けたシズちゃんが俺を抱き締めるのも、気が遠くなるほど何度も経験したことだ。最早恥ずかしさも感じない。俺は、どれだけ力をつけても、契約したシズちゃんには勝てやしないのだ。それがこの結果を生み出している。

「…臨也……俺」
「なんで、俺なんか助けたんだよ…」
「悪い…」
「見殺しにしてくれれば良かったのに…。どうして…」
「っ、じゃあ…お前はあのまま死んでも良かったのかよ!!俺に黙って見てろって!?ふざけんな!どれだけ勝手なんだよ、手前は!」
「だってお前が言ったんだろ!?俺だってもう死にたくないよ!痛いのだって嫌いだ!!契約だって、したく…なかった…」

声なんてもう出ないと思っていたのに。自分でも驚くほどの声量で感情のままに吐き出した本音は、瞳から溢れる涙で遮られた。違う、違うんだ。こんなこと言いたいんじゃない。

助けてくれてありがとうって。嬉しかったよ、って。

でも、口は止まらない。
止めることはできない。

「だって…君が言ったんだよ。幸せになりたいって。皆で幸せに、なりたいって」

契約する前の始まりの世界で、泣きながらそう言った彼を思い出す。新羅も門田も、4人が幸せな世界に行きたかったと。どうしてこんなことになってしまったのか、と。
泣きながら息を引き取る彼を見て俺がどんな気持ちだったのか、繰り返す世界に居る彼は知らない。

「…君が自分を犠牲にして俺達の幸せを祈ったから、次は俺の番じゃないか」

溢れる涙を拭くことすら出来ずにいると、頬に自分のではない雫が落ちた。霞む視界の中、シズちゃんの泣き顔が見える。泣きたいのは俺の方だ。この光景を何回見てきたというんだ。君の下らない願いを守るためだけに、俺は安らかに死ぬことも大人になることも許されない。

それでも、俺は助けたかった。始まりの世界で俺を庇って死んだシズちゃんのために、「せめてお前だけは」って言ってくれたシズちゃんのために。


泣き出す彼の身体がみるみるうちに魔女のそれへと変化していく。まだ理性を保っているのか、目と思わしきところからは黒い涙がいくつもこぼれおちていた。それも後数分したら、俺を俺と認知出来なくなる。親の仇、とでも言わんばかりに身体を壊された後は、この世界をも壊すのだ。

理由は簡単。力に耐え切れなくなった彼が魔女と化す。呆気なく、それでいて理不尽な理由は元々人間から離れた理不尽な存在だからなのだろうか。それにしても、魔女から見える世界はどんなものなのだろう。ふ、と完全に魔女となった彼が振り上げた手を見てそう思った。

ここまで来てしまえば逃げることなんて出来はしない。ならばせめて、正面から受け止めてやろうかと思った。

「………シズちゃん、馬鹿だね。本当」

最後に一つだけ、伝えたいことがあった。もう、彼には伝わらないけど。

「楽しかったよ。…ばいばい」

ここで意識がブラックアウト。強制終了だ。
また過去へと戻る。何度でも戻る。幸せな未来を見る為に、何度も何度も何度でも俺は今日を繰り返す。

「……ありがとな」

何も届かない意識の底で、優しい声が聞こえた気がしたがそれは気のせいなのだと俺は息を止めた。





世界が、また始まる。
ぱちぱち


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