「イザ兄、なんか嬉しそうだね!皆死んじゃうってのにさ。何々、人間が好きーとか言ってるくせに本当は嫌いだったの?」
「馬鹿言うなよ。きちんと好きだよ?人間も。今頃恐怖に震えてるんだなあ、とか考えるのは結構楽しいし」
「…性……悪……」
「何か言った?」
「……別…」

いつも通り賑やかな妹たちの世話をしていたらいつのまにか23時を過ぎて、世界が終わるまで後何分かという時間になってしまった。新羅から電話がきてた気もするけれど、あえて電話には出ないでおいた。妹たちの世話もあったし、新羅の声を聞いてしまえば生へ執着しそうだったから。そんなのは辛いだけだ。

「んー、そうだクル姉!ちゅーしよっか!最後だしとびっきり熱くて甘いの!」
「……承……」
「……マジかよ…」
「マジマジ大マジ!どうしよっか。イザ兄見てる?それとも交ざる?あっ、いっそ3Pしちゃったり?もー、こんなんだったら昨日の内に皆で一つになっちゃえばよかったね!本当失敗、大失敗。これは死んでも悔いが残るなあ」

本当こいつら頭がおかしいんじゃないのか。この俺が素直におかしいと認めるんだから相当だ。普通小学生っていったらもう少しこう、落ち込んでたり昼間の男の子みたいに泣いていたりとかするものだろう。こいつらの頭の中全て、俺の言葉一つでここまで歪んでしまったんだとしたら、今だったら素直に謝れる。

「なーんてね、冗談だよ冗談。ほら!クル姉!今のうちに!」
「……任…」

握っていた携帯を下からするり、と奪われる。すっかり気を抜いていた。いかなる状況でもこいつらの前では油断は禁物だったのに。

「ちょっと、お前ら!」
「さっきから大事そうに見ていた携帯の中身は何かなあ。イザ兄彼女いたっけ?それとも最後の最後までエロ画像でも眺めてたの?っと、何これ?」
「…見……、……?」
「ねー、イザ兄。このイケメン顔の3人は誰?イザ兄の友達…はないか!」
「怒るよ?」
「暴力反対!」

携帯に映し出されているのは昼間に新羅が撮った写メの一部だ。あれから別れた後、何分もしない内に新羅からメールが届いたかと思えば『あげる』というシンプルな言葉と一緒に、何枚かの画像が添付されていた。しみじみとそれを見ていたのだが、バレていたのか。本当こいつら目敏いな。

「なんかオールバックの人と一緒に写っている画像多いね。ふーん、へえ…金髪の人かっこいいなあ。わ、このイザ兄若い!中学生の頃のかな?」
「……楽…」
「ね!私たちといる時より楽しそうだよー!ずるいずるいずーるーいっ!!」
「ああ、もううるさいな。昼間に学校に行ってただろ?その時に撮ったの。分かったら返せって」
「…返……」

半ばむしり取るように携帯を取り上げると、まだキーキーと子供特有の高い声で何かを叫んでいた。とりあえず無視。全部に反応していたら体が持たない。

「むう。でもこんな仲良さそうにして、一緒に過ごさなくてよかったの?」
「いいんだよ、別に。あっちも確かに楽しいけど、お前達と一緒にいるのも、まあ大切だし。それに俺がいないとお前ら寂しいだろ?」
「あはは自意識過剰ー!」
「……笑…」
「…うるさいなあ」

我ながら恥ずかしいことを言ってしまった。こんな時じゃないと口が裂けても言わないようなことが、簡単に口からぼろぼろこぼれる。これも世界の終わりのせいだろうか。そうだ、そうに違いない。

一人顔を赤らめていると、妹たちがぴっとりと俺にくっついてきた。一瞬引きはがそうかとも考えたけれど、黙ってそのままにしておく。別にこの重さや温かさは嫌いじゃない。

「イザ兄!私たち、また兄妹になれたらいいね!これ本音だよ!!」
「……私…同……」
「俺は、どうかな」
「酷……泣…」
「えーっ!何それ何それちょっと酷くない!?うわーん!悲しいよー!!」
「嘘だって。そうだな、退屈しないとは思」
「やだー!私はマジキチなイザ兄じゃないと嫌ー!クル姉がお姉ちゃんじゃないといーやー!」
「お前失礼だよな、本当。分かったよ。俺もお前らと一緒がいいよ」
「投げやりでなんかやだー!!」
「……泣…」
「お前らは俺にどうして欲しいんだ…!」

ピーピーうるさい2人(主に舞流)を離そうとするも、何これ。馬鹿力過ぎてビクともしない。こいつらどんだけ強い力で俺にしがみついてんだよ。

それにしても『また』、か。シズちゃんの最後の言葉が蘇る。あいつにしては気の利いたことを言ってくれたよ、全く。おかげで死ぬのが少しもったいなく思えてきた。

「………兄?」
「ん?あぁ、大丈夫。九瑠璃は良い妹だな。どっかの誰かさんと違って」
「それにしても今日は星が綺麗だねー!届くかな?」
「話聞けよ」
「聞くだけ無駄だもーん!」
「………馬鹿舞流」
「へへー。まぁ、イザ兄とクル姉が私と兄妹になるのは絶対なんだし?心配することないよね!ね、クル姉」
「……再…会……嬉…」
「俺も嬉しいよ」
「イザ兄棒読みやだー!」


今頃、あいつらはどうやって過ごしているんだろう。出来れば、この街の何処かで笑っていて欲しい。振り返ればあいつらがいるような気がして、その幻影を消そうとそっと妹たちの頭を撫でた。





(そして世界は終わる)




ぱちぱち


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