「思ったよりあるね。門田君は何食べるの?」
「……つーかよ、どう考えてもこんな強盗紛いなことしてるの俺達くらいだろ」
「分かんないよー?たまたまここが無事ってだけかも。どうしようかな。久々に甘い物でも食べるかな。ドタチンも何か選びなよー」
「僕は、コーヒーでも飲もうかな」
「門田!こ、このティラミス人気で買えなかったやつ!」
「……お前らは本当、ああもういい。臨也、お茶取ってくれ。後蕎麦あったらそれも」
「あいあいさー」

食べたい物を選び終え、レジ横にあった店袋に食べ物を詰めて、ふと思い出す。

「…俺財布持ってきてねえぞ」
「いらないでしょ、そんなの。どうせお金とかもういらないんだし」
「でもなあ…」
「ぐだぐだうるさいなあ。ほら一万円、これで満足?」

ぺし、とレジに一万円を置く臨也の金銭感覚が気になる。そこは大体の金額を計算して、それに見合った金額を置いておくのが普通な気がするのだけれど。「ごちそうさまー」とか「悪いな」という礼を聞きながら、臨也の財布の中にさりげなく視線をやる。

「どういたしまして。ほら、シズちゃんもお礼は?ありがとうは?」
「お前、金持ちだな…」
「はぁ?」

財布の中に万札が、明らかに10枚はあった。一万円札が10枚、10万円。普通の高校生は普段から財布の中に10万円も入れて持ち歩いているのか。そんなわけがない。俺の財布の中には確か200円位しか入っていなかった。その500倍。普通にありえないだろ。

「臨也は収入源がいっぱいあるからね」
「……ほう?まだ何かやってたのか。また野球賭博か?」
「やーだ。違う!違うからドタチン怒らないで。学校ではやってないから」
「学校では、ね」
「新羅お前もう黙れ馬鹿!」
「あ、そんなこと言うんだ。じゃあ今ここで中学のあれを…」
「なんだ、なんか弱みか?」
「シズちゃんも食いつかないで!」

学校へ戻りながらそんな他愛もない、けれど普通からほんの少しズレた話をしていると、ちくりと何かの視線を感じた。辺りを見渡すと、小さい子供が一台も車が走っていない静かな道路の真ん中で、じっと俺達を見つめている。

幽霊かと思って心臓が跳ねた。白昼堂々幽霊とか、駄目だ。許せない。そんなの理不尽だ。この理不尽さを共感してもらおうと新羅の肩を叩き、子供を指差す。

「新羅、幽霊だ」
「……静雄、大丈夫だよ。こんな昼間から幽霊は出ないから。あれは普通に人間だよ」

すごく冷たい、いや哀れみの視線を向けられてしまった。だって今まで誰ともすれ違わなかったし、見かけもしなかった。外で俺達以外の人間に会わなかったのは、ただの偶然だったのか。

皆が皆家族と過ごしたいという考えを持っていたり、家で静かに過ごすという考えの持ち主ではないと分かっているけれど、何故か自分の中で4人以外の人間が外にいるという当たり前の事実がぽっかり消えていた。頭のネジが3本くらい飛んでいってるな、これは。

「…でも何やってんだ?あんな所で。車いないからって普通に危ねえぞ。おい、危ないからこっちにこい!」

門田が大声で子供を呼ぶと、びっくりしたような表情を見せて小さい歩幅でこっちへと走ってきた。臨也は風船ガムを膨らませながらその光景を黙って見ている。

子供は髪の短さや顔付きからして多分男だ。息を切らすこともなく、新羅の前に大人しく立つ。オールバックな茶髪、金髪、黒髪だが雰囲気や目付きが普通ではない俺達3人よりも、外見だけを見れば真面目な眼鏡としか思わない新羅の傍に行くのは仕方ないか、と一歩後ずさる。近付いて下手に怖がらせる必要もない。

「道路の真ん中にいたら危ないだろ?何してたんだ?」

門田がそう言うと、子供は明らかに怯えた表情で助けを求めるように新羅を見た。まだ5歳くらいだろう。人を見た目で判断してもおかしくはない。新羅が「大丈夫だよ」と言えば、ようやくおずおずと口を開いた。態度の違いが露骨過ぎて、少し門田に同情。今俺が話しかけたらどんな反応するんだか。

「…だって、車いないもん」
「いないからって危ないものは危ないだろ?急に車が走ってきたらどうするんだ?」
「は、走って逃げるよー…」
「あのな…」

パン、という割れた音と同時に、興味なさそうに見ていただけの臨也が門田を押しのけ無表情のまま子供の前に立った。

当然ながら子供は怯え、新羅の服を掴みながらちらちらとおっかなびっくり臨也を見ている。そんな子供を見ながら臨也はニヤリと笑いだす。突然の笑顔にびっくりしたのか完全に臨也から身を隠すように新羅の陰へ隠れてしまった。こいつ一体何を始めるつもりなんだ。

「轢かれちゃうよ?」
「ひ、轢かれないもん」
「轢かれたらどうなると思う?」
「わかんないよ!」

何を言い出すんだこいつは。話が物騒な方向へ曲がりつつある気がする、というか曲がっている。門田も子供も心配そうな表情で臨也の次の言葉を待っていた。新羅だけが一人、やれやれといった表情で苦笑いを浮かべている。

「人間って轢かれたらね、被害者の体格や車の速さ、ブレーキをかけた瞬間の距離にも寄るけど、こんな横断歩道も他に走っている車もない状態でブレーキ無しで走っていたとする。そんな車に撥ねられてみなよ。道路に頭がぶつかった瞬間、頭が割れて脳みそ」
「馬鹿か!お前は!!」

門田と俺の拳が臨也の頭に炸裂したのはほぼ同時だった。軽い力で殴ったが、臨也は二人からの攻撃に頭をさすりながら「おおお」と奇妙な声をあげている。こいつは馬鹿か。本当に馬鹿か。何を小さな子供に言おうとしたんだ。この馬鹿、確実に何かグロテスクなことを言おうとしていただろう。俺達を見るだけで怯えている子供に、俺達の口から轢死の恐ろしさなんて教えたらそんなのトラウマもんだぞ。

「えっ、頭が…?」
「違う違う。気にしないで。でも君は何をやっていたの?あんな所にいたら危ないよね?死にたい訳じゃないよね」
「死に、死にたくないよ!違うもん!絵を描いてたの。でも良いところがなくって、あそこは床が綺麗で」
「絵?」

新羅が優しく尋ねると、子供はさっきまで立っていた地面を指差した。確かに何か、白い線が見える気がする。





ぱちぱち


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