「あんまり物壊すなよ」
「やだなー。ドタチン固いよ。どうせこの校舎ももう使わないんだから、ちょっとくらい派手にやっても誰にも迷惑かからないって」
「…確かにな」

ぺたぺたきゅっきゅっコツコツとすとす。4人それぞれが違う足音を鳴らしながら校舎の中を探検する。初めにいたのが俺らの教室で、そこから臨也を先頭に校舎内を歩き回っている状態だ。

「どうせだし、セルティに写真いっぱい見せてあげよっと」

さっきから廊下や教室内をくまなく携帯で撮影している新羅が、携帯を門田に向ける。

「門田くん、はいピース」
「いいな!俺もドタチンと撮りたい!」
「いいよ、ほらほら早く時間がもったいないよ」
「…ピース………」

パシャリ、という音がしてシャッターが切られる。画面を覗き見ると、はっきりくっきりと2人の姿が映っていた。綺麗に撮れている。

「後で静雄も撮るからね」
「俺も?」
「うん。と見せかけて」

再びパシャリ、という音がして画面に俺が映し出される。自分で見ても分かるくらい気の抜けた顔だ。なんか恥ずかしい。新羅に消してもらうよう頼もうとすると、それより数秒早く新羅の手から臨也が携帯を奪い取った。あのノミ蟲は何を。横から門田が携帯を覗いて、二人の顔がみるみる内に笑いを堪えるそれになって、うわあああああ。

「何これ、シズちゃんかなり間抜けな顔してる!」
「悪い静雄、ちょっと笑う」
「不意打ちで撮られると、結構素の表情が見えるから面白いんだよね。うん、これは静雄ナイスだよ」
「あぁ!もううるせえな!!仕方ねえだろ、いきなり撮るこいつが悪い!」
「ムキにならないのシズちゃん。元からこういう顔なんだよ、諦めなって」
「んだと!!」

そうこうしている内に、臨也の足がとある教室の前で止まった。プレートには校長室、と書かれている。

「あっれ、鍵かかってる」
「まあ、大切なものとかあるんじゃない?」
「よし、シズちゃん出番。鍵壊して」

鍵といっても南京錠一つだけだ。こんなの力を使わなくても取れる。果物をもぎ取るような感覚で簡単に鍵は取れた。ベキリ、と壁も剥がれたがまあいいだろう。どうせもう使わないんだし。でも、職員室に行けば鍵なんていくらでも手に入りそうだが、これも時間の節約というものか。鍵を取るところをわざわざ動画で撮っていた新羅にデコピン。

「本当すげえな」
「これくらいなら簡単に出来る」
「うんうん、ぜひ解剖したいなあ」
「黙れ変態眼鏡」
「あ、そんなこと言うんだね?いいよ、君のさっきのあれ、ネットに流してやるからね。こんな日だからこそ、ネットに接続している人がたくさんいるんだよ。よかったじゃないか、有名人になれるよ」
「……なんていうか、悪かった」
「分かればいいんだよ。今は僕の方が上だってことをお忘れなく」

ぶん殴りたいけれど、殴ったらあの画像がと思うと迂闊に殴れない。新羅むかつく、眼鏡むかつく。派手に割れてしまえばいいのに。後頭部を思いっきり殴ったら記憶が抜け落ちたりしないだろうか。

「何か言いたそうだね?」
「別に」
「こら、喧嘩はやめろよ?」
「喧嘩じゃないよー、僕が一方的にからかってるだけだよー」
「たまに新羅、とっても性格良くなるよね」
「ありがとう」
「うん、褒めてない」

いざ校長室に入ってみるとやっぱりそこには誰もいなくて、本当に俺達だけなんだなと実感した。それにしてもこの緊張感はなんなのか。高級そうな椅子や、歴代校長の写真、校旗なんかが飾られている校長室に漂う妙な緊張感。本当に入っても良かったのだろうか。

そんなことを考える俺の横でパシャパシャ写真を撮る新羅と、校長のみが座ることの許された椅子に堂々と腰掛ける臨也。こいつらは完全に罪悪感だとか余計な物は捨て去ったらしい。南京錠を壊し、校長室へ入れるようにした俺が一番思ってはいけないことだけれど。

「すっごい!一回座ってみたかったんだよね、沈む沈む」
「お客さん用の椅子だけでもこのくらい沈むんだもの、校長先生のだったらもっといいんだろうね!臨也後で座らせてよ」
「後でねー。今は束の間の王様気分を味わうよ」
「ったく、お前らはこんな椅子だけでよくもそんなに騒げるな」
「そういうドタチンもちゃっかり座ってるよね。素直じゃないなあ」
「一回は座りたいだろ」

何気に門田も楽しんでるんじゃねえか。今はもしかしなくても目一杯馬鹿やった方がいいのかもしれない。やったもん勝ちみたいな。そんなノリが丁度いいのかも。ふむ、やったもん勝ちか。

「シズちゃん突っ立って何やってんのー?何かあったら生徒諸君、私に相談したまへ」
「誰だよ」
「校長の真似、ちょっと似てない?」
「分かるっちゃあ分かるってレベルだな。30点」
「門田君も物真似とか上手だよ!ね?ほら、ムービー起動してるからやってよ!」
「ドタチン本当?」
「門田マジか」
「いきなり過ぎるだろ、つーか物真似なんて何もできな」
「3、2、1。はい!」
「な、何かあったら生徒諸君、私に…相談したまへ」
「あはは、門田君ぜんっぜん似てない。でも保存っと」
「岸谷お前ふざけるな!消せ!」

新羅の隣に腰掛け、3人のやり取りを見る。後十何時間で世界が終わるっていうのに、本当呑気なものだ。世界でこんなに笑い合っているのは俺達くらいじゃないのか。でも確かに、「俺達の出会いは」と語られても新羅とは小学生からだし臨也との出会いは思い出したくもないし、門田に至ってはいつのまにか仲良くなっていて、今では欠かせない存在になっていたという具合だし。だからといって今までの俺達を振り返っても、面白いくらいに今と何も変わらない。

それにそんなことを話すキャラでもないしなあ、としみじみ思う。それなら普段と何も変わらず馬鹿騒ぎをしていた方が俺達らしい。
不意に、ぐるるとお腹がなった。出所は間違いなく俺の腹からだ。結構響いたかと思って3人の方を見ると、3人揃って俺を見ていた。さすがに少し焦る。というか、無言でガン見はちょっと怖い。

「腹減ったのか?」
「もうお昼だもんね。どうする?お店、っていっても営業してないと思うけど」
「学校の近くにコンビニあったじゃん。あそこ行こうよ。まぁ、ロクな物は残ってないとは思うけど、ないよりマシでしょ?ねえシズちゃん」
「とりあえず食えればなんでも…、うえ腹減った」
「静雄、飴ならあるぞ」
「食う」

もごもごと飴を舐めて空腹をごまかす。差し出された飴が黒飴な辺り、さすが門田と言いたくなった。渋いというか、落ち着いているというか。

「よし、じゃあ行こっか!」





ぱちぱち


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