学園を [ 6/7 ] クリスマスを目前に控え少し浮かれた空気に浸っていた学園ではその日、朝から大事件が起こっていた。 最初に気付いたのは桂木麗央生徒会長の親衛隊。 低血圧な彼のためにモーニングコールをする役目がやっとまわってきた彼は、その日30分の待ちぼうけを喰らうことになる。 親衛隊の決まりで電話をしてから部屋へ向かう事になっていた彼は、決まり通りに麗央へ電話を掛ける。 けれど聞こえるのは機械的な女性のアナウンスで電源が入っていないと告げられるのみ。 これは珍しい事ではないので決まり通りに彼の幼なじみである風紀委員長の部屋へ鍵を借りに行く。 いつもならば時間にきっちりしている本宮と副会長の部屋へ行き彼を起こせば仕事は完了だ。 けれど彼はそうならなかった。 風紀委員長である本宮蓮もまた、部屋どころか学園からも消えていたのだった。 *** 飛行機に乗り続けて3時間。 小さな液晶に流れ続ける派手なアクションシーンにも飽きてしまった蓮は隣で爆睡している麗央をちらりと視界にいれる。 颯哉が学園を離れてから3ヶ月。 学期末のテストを終えれば学園に行くのは追試を受ける者だけ。 多くの生徒は終業式までの一週間、一足早い冬休みを送る事になっている。 ただ学園から生徒がいなくなる訳ではない。 いない間の引き継ぎをしているとはいえ、トップがいないというのは内も外も羽目を外せる格好の機会となる。 風紀に関してはその例から外れるが、それを知るのもまた風紀のみ。 帰った後の処理が今から恐ろしい。 しかしそんな思いも颯哉に会うという目的とは比べ物にならない。 彼は口実さえ出来れば永遠に引きこもってしまう男だ。 先日の電話でも予想通りあちらの学校の長期休暇中にも日本に帰るつもりはないとキッパリ言われてしまった。 物心ついた頃からずっと一緒にいた人間とあっさり半年会わないでいられるなんて、己の恋心を無視しても有り得ない。 現に隣で寝ている麗央でさえもここ最近元気はなかったし、彼に似合わないしおらしい言動が目立っていた。 こんな珍しい彼を颯哉が見られないのは些か残念だと口角があがるのを隠さずに麗央を見てみれば目が覚めていたようでこちらを怪しそうに見ていた。 「何ですか。起きて早々そんな顔を見るこちらの事も考えて下さい」 「それはお前…言い過ぎだろ」 「そうですか?その傷ついた心は颯哉にでも癒やして貰いなさい。クリスマスイヴは2人きりにしてあげますから」 「…」 「…言わなければ良かった。せめて貴方が蘭香さんにもっと似ていれば」 「いや、それはもっと気持ち悪いだろ」 「ですね」 2人の軽口を乗せて飛行機は雲の中を突き抜ける。 霧の街ロンドンへ向けて――― [*prev] [next#] しおりをはさむ |