神様の隣人 _ | ナノ

カスタード

 兄妹みたいだと私は思う。似ているわけではないけれど、男と女と評するには、悟と灯の二人にはまるで色気というものが感じられなかった。悟が灯を好きらしい。というのは普段の様子から察していたが、それも色を仕掛けるというよりは、小学生男子が好きな女の子を揶揄うような、実に幼稚なアピールだった。
 灯は灯で、悟に対して、あくまで同じ中学出身の仲の良い男子生徒といった、実に学生らしい態度であった。

 悟と灯は味覚も子供だ。とくに甘いお菓子をよく好む。似たような味覚をもつ者同士なのかと思えば、それがそうでもないのだ、と二人は顔を見合わせて笑っていた。
 ある日、寮の共有スペースで頭を寄せ合う二人を見かけた。今にもぶつかりそうな距離で、ダイニングチェアに横並びに座っている。
 近づけば、二人はテーブルにたくさんのシュークリームが並べて、困り果てたように、うなっていた。
 いったい何をしてるんだい。私が聞けば、色の違う二対の瞳が私を見上げてくる。

「一番美味しいコンビニシュークリーム決定戦」
 灯が真面目に答えた。
 一番美味しいコンビニシュークリーム決定戦。私はそれに聞き覚えがあった。確か、先週に悟がそんなことを言っていた気がしたのだ。
「それは、一番美味いコンビニクリームパン決定戦」
 今度は悟が、真面目に訂正した。
 それから灯が、一つのシュークリームを指差して、
「私は、皮カリカリ派だから、これかな」
 と意見を述べる。
 それにすかさず、悟が異議を唱えた。
「シュークリームは、ふわふわだろ」
 なるほど。確かに好みが別れている。
「なら、これ?」
「んー、それも悪くねぇけど、クリームこっちの方が美味くない? バニラエッセンス多め」
「好きだねぇ、バニラエッセンス」
 しばらく二人はシュークリーム談義に花を咲かせていた。今度は本格的に洋菓子店の食べ比べをするようだ。「美味しいとこが青山にあるんだって」と、灯が雑誌の情報を悟に教える。

 悟と灯が噂の青山のシュークリームを買ってきたのは、それから数日後のことだった。他の店からも買い集めてきたようで、二人は両手にそれぞれ別の店のマークのついた紙の箱を持っている。今日は傑の分もあると言うので会に参加しようと思ったが、洗濯機の中に洗い物を入れたままだったことを思い出し私は一度部屋に戻ってから合流することにした。
 しばらくして、寮の共有スペースに行くと、またしても頭を寄せあう二人の後ろ姿があった。
「一ノ瀬、食べるの下手くそすぎね」
「自分でも、まさか全部クリーム落とすとは思わなかった」
 灯が笑う声が廊下に聞こえてくる。
 楽しそうだな、と微笑ましい気持ちで見ていれば、悟が指ですくったカスタードクリームを灯の前に差し出した。何か意地悪なことを言うのかと思えば、無言のまま、灯がおもむろに悟の指を舐めとるので驚いた。
 灯が悟の指から口を離すと、悟は小さく灯に何か言い、まるで灯を食べるみたいなキスをした。灯はそれを受け入れて、キスが終わるとうっとりと悟のことを眺めていた。
 そのあと、二人は生地の違いで、また意見が対立していた。それぞれに私を仲間に引き入れようと、「カリカリ」と「ふわふわ」がどうのこうのと、言っている。子供のような顔で、唇を色づかせて言っている。



夏油目線。入学したての頃の話。このあと部屋のみがあって、付き合っていないことを知ります。
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