Jujutsu kaisen | ナノ

芹を摘む

 強く聡い仲間がほしい。
 教壇の前で、五条先生は私にそう仰いました。賢い。という言葉を使わなかったのは、敢えてのことだったように私は思います。賢い、ならば私はこのときすでに十分な基準を満たしていたはずでした。それでも五条先生の欲する仲間の基準には、達していない。
 強いだけでは足りない。
 賢いだけでも足りない。
 自ら考え、行動し、生まれ持った才能を武と変える。
 そういうことが出来る人を先生は求めているようでした。そうなると、やはり私はまだまだ未熟。
「教科書通り、指示通り、君は僕の言いつけを的確に叶えてくれる。でもそれって一人じゃ何にも出来ないのと似たようなものだよね」
 五条先生は、教卓に両手をついて、乗り出すような姿勢をとると
「卒業までの一年間、僕が君に期待するのは自発性を身につけること。君が考え、君が動き、君の力で結果に結びつける経験をしなさい。それが出来なければ、君はいつまでも僕の木偶のままだ」
 と、厳かに私へ言い渡しました。
 卒業。
 五条先生の言葉を、まだどこか他人事に感じている私がいました。春。雪解けとともに繰り返し訪れる季節を、私はこの先も呪術高専で繰り返すのだと、根拠もなく信じていたのです。入学したのならば卒業に至るのは当然のことなのに。それでも予定よりも早く終わりを迎える学生生活に、せめてあと一年あれば、とやり場のない切なさを抱かずにはいられませんでした。

 私が呪術高専が五年制から四年制へと変更になったと知ったのは、ついこないだ、三年生の冬のことでした。
「来年、卒業になったから家に報告しておいて」
 五条先生が、芹の入った鍋を見下ろしながら私にそう伝えたのです。あまりに唐突で、場所も教室ではなく寮の台所でしたから、私は最初五条先生が私の学年を一年勘違いしているのかと思ったものでしたが、五条先生の顔は静かで、真面目なものであったので、私はそれが本当のことなのだと悟りました。
 もともと呪術高専では最終学年となる五年生は、モラトリアム期間として各自自由に時間を使うことが許可されており、決まった授業などははありませんでした。自由なので、学校に来る必要もとくになく、別の教育機関で学ぶ人もいれば、術師としての仕事を密にいれる人もいますし、仕事から離れて遊びほうける人もいるようでした。そして、残念なことに、そのまま呪術界を離れてしまう人も決して少なくは無かったと聞いています。
 そのため、受ける授業がないのならば、という見解のもと最後の一年を撤廃するに至ったというのが、あとから伊地知先輩から聞いたこの度の四年制への移行の経緯なのでした。
 残念ですが。伊地知先輩は困ったように眉を下げ、少し沈黙すると、では。と短い別れの言葉を残して事務室の方へと去っていかれました。私も下がった眉を持ち上げることが出来ないまま、状況が知れてよかったです。寂しくはありますが、仕方ないですね。教えててくださり、ありがとうございました。と頭を下げて、その場を小走りに去りました。
 卒業なんて。私はまだ、何も成していないのに。
 そんな焦りが、私を当てもなく走らせるのでした。

 卒業が早まったからといって、進路相談というものを、呪術高専では熱心には行いません。
 ここでは呪術師になるか、ならないかの二択しかないからです。五条先生も、例に漏れず進路相談はあっさりとしたものでした。
 継ぐの。
 と教室で訊ねられて、
 はい。
 と私は二つ返事に答えました。
 我が家は代々、呪術に関わる家庭です。産まれたときから決められた、人生の道。敷かれたレールに乗ってればいいんだから、楽だよね。なんて意地悪な言葉をかけられたこともありますが、意外にも、呪術高専に入学してからは憐れみの目を向けられる機会が増えました。
 その家に産まれたばっかりに。この先の人生をずっと苦労するはめになるなんて。
 古いものを良きとする人たちですら、ため息ともに、皆一様に私を見つめながら、私ではない家の名前にむけてひっそりと呟くのです。
「あなたに産まれてこなかった。それだけで私は恵まれているのかもしれない」
 呪術高専を離れた先輩に、言い残された言葉を、私はときどき思いだします。
 私の人生は、苦労する道ではない。けれど人に羨まれるものでもない。そして私はこの道を歩き続けなければならない。

「あまり思い詰めてはいけないよ。生き方なんて深く考えるものではない」
 校医である家入さんはかたい表情のまま、私の手首をとり、脈を測ると小さなため息をつきました。
「ましてや、身体に影響が出るほどには」
 言い返す言葉もありません。ここのところ、私の体重はみるみると下降しており、ついには先程、国語の授業の最中に目眩を覚えるほどでした。
 ただ一年、卒業が早まっただけで、何をそこまで弱まることがあるかと思われるでしょうか。
 それもそうかもしれません。
 私もいったい、何がこんなにも苦しいのか、本当のところはよくわかっていないのです。ただ、まだ呪術高専の生徒でいたい。五条先生の生徒でいたいと願わずにはいられない。あの家から逃げているだけなのではないか。そう自問したこともありました。しかしその思いも結局は、五条先生の生徒でいたい、という思いと同意義にすぎないのです。
「食欲が湧かないほど悩みが育っているなら、一人で抱えこまずに、早く担任にでも相談しなさい。あなたの場合はとくに」
 家入さんは言いました。私の場合。そう仰る家入さんの目もまた、私ではない私の家の名前を見つめているような気がするのはきっと気のせいではないのでしょう。
 五条家。
 私のことを知っている人であればあるほど、人は私につく肩書きばかりを見つめるのです。

 五条家の術師。それが、分家に産まれた私に赤子の頃からつきまとう肩書きです。普通、術師かどうかの判別は5歳あたりにつくと言われているのですが、まだ赤ん坊の私をみて、五条先生がこいつも術師だと家のものに告げたのだとか。かくいう五条先生も、まだ四歳になる前だったのに。
 次代五条家当主、というのが、私の知る五条先生の最初の立ち位置でした。
「どうせ当主になるって決まってるのに、いつまでも次期ってやだよね。なんで俺より弱い奴らが、歳が上ってだけで偉そうにしてんの」
 そんなことを五条先生がぼやくたびに、周りの大人達はみんな、ヒヤヒヤと顔を合わせたものです。子どもの戯言と言ってのけるには、五条先生は特別な存在であり過ぎましたから。
「もしも悟さんが暇を持て余されているのでしたら、呪術高専に行かれてみては、いかがでしょう」
 次代に力を増す五条先生に言ったのは、当時の当主様の側近、私の父でした。納得のいかないものだったのか、すかさず五条先生は異を唱えます。
「たかだか数年追い出して、なんの意味があるんだよ」
 追い出す、という言葉に、私はびっくりしました。当時の私は水面下で大人たちが執り行う政争というものに気づきもしていなかったのです。
「いいよ、そのかわり時期がきたらナマエを高専に送ってこい。俺が直々に面倒みてやるよ」
 ありがたいだろ? 嘲るように笑いながら、五条先生は父をじっと見つめました。父は見たことがないくらい顔色を青くして、それから、ゆっくりと頷きました。五条先生も頷きました。たった今言葉少なく取り決められた何かは、きっと私にとって嫌なものなのでしょう。父も五条先生も、この家全てが、私に優しくない場所なのだということを、私はこのときようやく理解したのでした。
「ほんとに、来たんだ」
 記憶よりもずっと穏やかな声で出迎えられたのが四年前。五条先生はまだ呪術高専の五年生でした。
「五条さんとか、先輩って呼んで。まあ僕ってわかれば、呼び捨てでも何でも好きに呼んでくれていいんだけどさ。ただ、悟さまとか、坊っちゃんみたいなのは勘弁してほしいかな」
 それならと、私は、先輩と呼ぶことにしました。先輩の五条先生は声色だけでなく、言葉遣いも次代当主としてお仕えしていた頃より穏やかになっておられました。
 ガラスのように、冷たく、鋭利な人だったのに。
 ここで過ごせば何か変わることが出来るのだろうか。私は期待しました。それから変わってしまった五条先生をみて、妙な思いに耽るのです。
 割れたガラスの切っ先を抱きしめて、痛みに血を流したい。
 どうしてこんなことを思うのでしょう。自分でも恐ろしく、顔を顰めたくなるような感情を、しかし戯れと誤魔化せないほどに、私は本気で思っていたのでした。

 互いに学生であった頃には、男女の関係を結んだこともありました。
 どうやって、その関係に持ち込まれたのか、恥ずかしながら私は終わった今でもよくわかっていません。
 実家で食べた七草粥が食べたいと申し付けられて、私は了承し、芹を刻んでいたのでした。すると、気づいたらすぐ後ろに五条先生が立っていて、気づいたら事は始まっており、ようやく息をついたかと思えば、そのときにはすでにもう事は全て済んでしまっていたのでした。
「春から僕、教師になるんだ。だから生徒とはセックスしない方がいいと思うんだよね」と五条先生が私に関係の終わりを告げたのは、それから私がようやく男女の要領というものを掴みはじめた頃でした。僅か3ヶ月。ほかの関係から比べると非常に短かな関係でした。そしてこの終わりを告げられた日が、
「先生」
 と、今に続く、五条先生の呼称であり、肩書きを私が初めて呼んだ日でもありました。
「当主には」と私が聞くと五条先生は、
「なるよ。そっちのほうが便利そうだから」とさっぱりと答えられました。
 このあたりから私はしばしば、家に帰りたくないと考えるようになりました。それが御三家の家の女という生き物の扱いに嫌気がさしただとか、他に生きたい道が見つかったとかならば、敷かれた道を外れる手立てはきっとあったのですが、私はあまり、それらのことに興味がありませんでした。
 ただ、この先の未来を思い浮かべたときに、当代当主と女中としての時間が長く待ち受けているのだと思うと、どこか遠く離れた地へ行ってみたい。そんな気持ちになるのでした。
 だからというわけではありませんが、宿泊を有するような、遠方での任務終わりに、宿に帰らずふらふらと歩きまわる時間が増えました。
 外に出ると、いろいろなものに出会います。
 例えば袈裟をかけた長髪の男性、とか。雪深い、静かな村にある、石造の鳥居の下で、袈裟姿の男性は呪霊を食べているところでした。ぎょっとして、思わず「えっ」と、不躾にも私は声を上げてしまったのです。
「懐かしい制服だな」
 振り返った袈裟の男性は、私を見るなり、ぼそりと呟きました。背の高い人でした。私の中では長身の男性といえば五条先生という方程式が出来上がっていたのですが、きっとこの方の知人も同じような式を抱いていることでしょう。
 ただ背が高い、というだけでない、象徴となるだけの印象の強さがその方にはありました。
 印象的な男性は、夏油さんと名乗りました。
「高専の子だね。悪いが先に祓わせてもらったよ。あとそう、それから、君何か食べるものを持っていない?」
 ええと。私は少し狼狽えて、それからポケットの中にいれていた飴を夏油さんに差し出しました。金色の包みの甘い飴を夏油さんは手に取ると、「これも懐かしいね」と呟いて封を破き開けました。
「懐かしい?」
 私が聞くと、夏油さんはつっけんどんに
「これが好きなやつが昔いたんだ。なに、こっちの話さ。面白くもなんともない」
 と答えながら、ボリボリと音を立てて飴玉を噛み砕くのでした。
 やがて噛み砕いた飴玉をごくんと喉仏を上下して飲み込むと、夏油さんは
「君の名前は」
 と訊ねました。
 少し悩んで、正直に答えると、夏油さんが、すっと目を細めて私の全身を目で辿るのがわかりました。品定めをするような視線が不愉快で、私は飴玉を渡したことを後悔しながら、身を隠すように右手で自分の左の腕を掴みました。夏油さんがどのような心持ちで私を見ていたのかは預かり知らないところではありますが、だからこそ、これくらいの抵抗は許されると思うのです。
「五条家か」
 夏油さんは、そう呟くと私から目を逸らしました。
「知っているのですか」
 そう聞いたのは、私の苗字が五条の姓では無かったからです。私は私のことを知っているのか、そう問いただしたのです。ですが、夏油さんは私の疑問をそうとは捉えなかったようでした。
「五条悟を知らない術師はいない」
 夏油さんはぽつりと答えました。
「私に会ったことは、どうか、口外しないでくれ」
「なぜ」
「五条悟に知られたくない術師もいる」
 そんな! 私は思わず口から出した声を、自らの両手をもって塞ぎました。夏油さんの視線がまた私に戻ってきます。今度はじっと、まっすぐに、夏油さんは私の顔を見やりました。
「そんな?」
 聞き返す夏油さんに、私は黙って首を横に振りました。私を見る夏油さんの顔が、呪術高専で、私に憐れみを浮かべる人達と同じ表情を浮かべているように思えたからです。
「もしも君が君の世界を捨てる決心がついたなら、私のところにくるといい。そのときは我々は大いに君を歓迎しよう」
 夏油さんがそういうと、どこからともなく巨大な鳥の呪霊が現れるのでした。夏油さんが、鳥の脚に捕まると、鳥は大きな身体を前のめりにし、空へと飛び立つ準備をしているように見えました。
「飴玉の礼に助言をするならば、あの男を愛してはいけない。同じものに、君は永遠になれないからだ」
 その言葉を最後に、夏油さんは南の空に去っていかれました。五条先生と同じものにはなれない、なんてことは夏油さんに言われずとも私は産まれたころから十分に理解しています。五条先生と私はつねにに、「当主」と「従者」であり、「先輩」と「後輩」であり、「男」と「女」でありそして現在は「教師」と「生徒」といった各々の役割を全うしていたからです。しかし「愛する」という点からそのことについて考えたことはありませんでした。そして私は夏油さんの言葉によって、自分が五条先生に恋慕の情を抱いていることに気づかされたのです。

「倒れたんだって?」
 軽快な音を立てて、五条先生は私の眠るベッドに備え付けられたカーテンを開け広げました。年頃の女の子というものに対する遠慮を五条先生は全くしません。その無遠慮な行いは、五条先生が幼い子どもの頃から変わらない数少ない点であり、そして私は十数年の日々の中で、すっかり慣れてしまっているのでした。
「ご心配をおかけしました、貧血だそうです」
「僕はいいけど。心配してたよ、あの、国語の先生」
 五条先生はベッドに腰かけると、あと硝子も、と言いながら指先で私の前髪を横に流しました。関係を結んでいたときと、よく似た手つきに私は胸がザワザワと忙しなくなるのを感じました。武骨な態度には慣れていても、甘やかすような手つきにには慣れていないのです。
 男女の関係であったのは、とりわけ短い期間でありましたし。
 なによりもう、男と女という関係はおろか、自分の感情すらよくわかっていなかったころとは、違うのですから。
 モゾモゾと私が身じろぎすると、五条先生の手は私の額から離れていきました。
「あとで、顔見せにいっておきなよ」
「はい」
「授業、何やったの?」
 五条先生に、呪術以外の授業のことを聞かれるのはとても珍しいことでした。私がぽかんとしていれば、ん? と五条先生が不思議そうな顔で、答えを促しました。
「春の季語を」
「季語?」
「古典を今、学んでいます」
「ふーん、そうなんだ。へえ」
 あまりにも興味のない声に、私は少し笑ってしまいます。
「あー、バカにした? ちゃんとわかるからね。桜とか梅とか松とか、そういうんでしょ。あとなに、筍?」
「筍は夏の季語だそうです」
「嘘! うちで春に食べてたじゃん」
「俳句などの季語は、旧暦に合わせられているので、実際の季節と少しずれるのです」
「なるほど。春の七草を冬に食べるみたいなことね」
 五条先生がどれだけの意味をこめずに、例を出したのかは私にはわかりませんでしたけど、「七草」というものに、私の身体は緊張を覚えるのでした。男女の触れ合いを思い出したばかりだったからか、もしくは、卒業を告げられたときを思い出していたからかもしれません。
 どちらのときも、思い返せば、私は芹を刻んでいたのでした。芹は春の季語です。植物としての芹。そしてもう一つ、芹摘むという歌語があります。

 じゃあこれ、お見舞い。五条先生はそう言って、家入さんの机に置かれたビニール袋を引き寄せると、私の枕元にそっと供えて、保健室を後にしました。
「簡単なものでいいから、少しだけでも食べなさい。体調が戻ったら話をしよう」
 付け足された言葉のとおり、袋の中にはプリンとみかんのゼリー、それから苺のヨーグルトが入っていました。
 家入さんからもしかしたら、体調のことを何か聞いたのかもしれません。みかんのゼリーを取り出して、開け口を摘んでみましたが、蓋を引く前に私は手を離しました。何か空気のようなものが身体の中をいっぱいに満たしており、どうしてもこれ以上、なにかを身体の中に取り入れることが出来なかったのです。
 五条悟に知られたくない術師もいる。
 ふと夏油さんの言葉を思い出しました。あの日から思い出すことはなかったのに、まるでついさっきまでそれに頭を悩ませていた感じで、その言葉はぬるりと私の中に湿り気と重みを持って沈んでいくのです。
 夏油さんの言葉に、私はやはり、そんな! と強く反発したい気持ちになりました。
 そんな贅沢なことを、よくも。
 そう詰め寄り、責め立てたい思いでした。
「ずるい」
 夏油さんが羨ましい。私は切に思っています。それから、五条先生に私を見てほしい。知って欲しい。愛してほしい。と次々と叶わない思いが、頭の中を埋め尽くすのです。
 こんな浅ましい思いを、誰にどう、打ち明けることが出来るでしょう。
 話をしようと述べたとき、五条先生ですら、私を見てなどいませんでした。私を憐れむ人達と同じように、五条先生もまた、別の何かにむけて憐れみを向けていたのです。
「ずるい」
 今度は顔も名も知らない誰かにむけて、私は恨み言を吐きました。誰かの憐れみも、二人の関係の名前も、変化も、自分の考えすら、私はどうでもよかったのです。
 五条先生の望むものになりたい。
 それだけが私の唯一心からの願いでしたから。

 開け放たれたカーテンの奥にある扉を、私はじっと見つめ、布団の中に納めていた足を床におろしました。立ち上がり、軽く布団を整えてから、開くのをやめたみかんのゼリーを、手付かずのプリンやヨーグルトが入ったビニール袋に戻し、それからそこに呪術高専の学生証を加えて、もう一度布団の上に置きなおしました。
 廊下へと続くドアのノブは、すっかり痩せ細ってしまった手では少し重たく、しかしそれがこれからの決意の重さのように感じられて、私は背を押された気になります。
 自ら考え、行動し、生まれ持った才能を武と変える。そういう者になりたい。
 五条先生の、望む者になりたい。
 相反するようで、同じ意味をもつ存在を、五条先生に届けるために、私はいま、世界を捨てるための一歩を踏み出すのです。
 例え五条先生が、私を見てくれなくとも。
 例えこの思いのはてに、命が痩せ、尽きようとも。
 私は私の愛に報いるために。




 忠告はしたよ。
 袈裟を纏ったその人は、憐れみをもった声で私を出迎えました。一つ頷き、見つめた瞳は、顎をぐっとあげなければ噛み合わず、私はやはりその人を、五条先生の次に背の高い人だなと思うのでした。
 

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -