きっと雪のせい


変わりない毎日は淡々と過ぎ気付けば既に冬が訪れていた。
初雪だろうか。ハラハラと舞い始めた雪を悟はぼんやりと教室から眺めていた。
白くて掴みどころがなくて…まるで名前みたいだと思った。
部屋で震える彼女を抱き締めたあの日から悟は会えていなかった。もう半年くらい高専に帰って来ていない。テレビや雑誌を見れば名前は笑っているけれど悟が見たいのはその作り物の笑顔じゃなかった。

「…あれ名前じゃない?」

んな訳あるかよ。と硝子が指差す方を見ればグラウンドの端に白いコートを着た女がいた。悟は教室を飛び出した。
ふわりと冬の風に靡く亜麻色の髪は間違いなく彼女の色だ。


「名前!!」
「……」

名前を呼びながら駆け寄るも彼女は聞こえなかったのか空を見上げたまま動かない。
速度を落としてゆっくりと名前の元へ進む。
瞬きも忘れて空を見つめる翠色の瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちていた。

「…誰?」
「私は……え、あ!悟!」
「何してんの。風邪ひくぞ」
「雪だって思ったら役に入っちゃったみたい」

まるで知らない人だった。ふわりと舞い落ちる雪を見つめる瞳は切なくて、でも冷たい殺意に満ちたような色を滲ませていて誰か分からなくなる程知らない表情だった。
何故かもう会えない気がしてぎゅうっと名前を抱き締めた。
身長高いのに華奢で細くて冷たい。スッと雪と溶けて消えてしまいそうだ。
ゆっくりと背中に回された腕に悟の心は締め付けられる。

「悟はあったかいね」
「ん、教室いたからな」
「映画のチケット渡しに来たんだ。また直ぐ戻らなきゃ行けなくて、久しぶりなのにごめんね」
「なぁ。…キスしていい?」
「えっ、い、いいっ……んっぅ」

顔を真っ赤にして見上げる名前は悟の知ってる名前だった。我慢出来ずに唇を重ねる。ちゅっちゅっと啄むように彼女の柔い唇を堪能した後、下唇を舐めると薄く開いた口に舌を入れる。
まじで幸せ、気持ちいい。悟はブワッと溢れ出す幸福感に身体中を包まれていた。

「んんっぅ、さ、とる…」
「ごめん…嫌だった?」
「嫌、じゃ…ない」
「良かった。…迎え来てんの?」
「あ、うん。車待たせてる」
「風邪引くから早く行けよ」
「ありがと…もう少ししたら帰ってくるから、あの、待っててくれる?」
「馬鹿なの?彼氏なんだから言われなくても待つに決まってるだろ」

何だか甘い色気を振り撒く悟に心臓が破裂しそうだ。と思いながらなんとかありがとうとお礼を伝えてチケットを三枚手渡した。
マネージャーを待たせてるから早く行かないといけないのに何故か名残り惜しいと思ってしまう。
グルグルと考えた名前は悟の胸元を掴んで触れるだけのキスをしてその場から走り去った。
え、まじで可愛いすぎんだろ。伏せられた長い睫毛も、柔い唇も、甘い香りも全部が悟は愛おしくて堪らなかった。

「悟ー!風邪引くよー!!」

振り返ると教室から盛大ににやついた傑と硝子、青筋を立てる夜蛾が此方を見ていた。
そういえば授業中だったっけ。
そんな事が気にならないくらい名前の全てが悟を捉えて離さなかった。



「名前?どうしたの?」
「いや…何でもない」
「…そう?」

車に乗り込んだ名前にマネージャーはそんな顔も出来たんだなとバックミラー越しに微笑んでアクセルを踏んだ。




  
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