心地良い病



「はぁぁ。」
「五条…さっきからその溜め息うざい」
「まぁまぁ。悟は恋煩いなんだからそっとしてあげようよ」

キッと二人を睨んで机に突っ伏した。
全くもってその通りなので反論はしない。
名前に会えていない事が堪えていた。

「それで、名前に憑いてる呪霊って結局何なんだい?」

あの後名前は傑と硝子にも何があったのか話していた。綺麗に笑う彼女は絵に描いたような愛の溢れる家庭で育っていそうだと思っていた二人も悟同様に言葉を失った。
それでも震えながら話してくれた名前を傑も硝子も守りたいと思った。

「なんていうか…アイツの負の気持ち?」
「名前が呪霊を生み出したってこと?」
「違う、もともと刀に憑いてたのが名前に憑いて特級にレベルアップした感じ」
「んーよく分からないな」
「名前は別人格って言ってた。痛い憎い殺したいとか嫌な気持ち全部呪霊に喰わせて成長したからソイツは自我を持ってる」
「解離性同一症、か。」
「成る程ね。一般的なものと違ってもう一人の自分は呪霊って事だね」

名前が向き合う覚悟がないと言ったのは思い出したくなかった過去だからだろう。
それにあの殺人衝動。確かに上層部に知られたら厄介だ。上は呪詛師を認めない。
縛りを結ぶ前にバレたら名前は呪詛師として処刑されるかもしれない。
特級呪霊を縛りも無しに飼っている彼女はどんな気持ちで生きて来たのだろうか。

悟は呪術師ではなく女優の方が名前には向いているのではないかと考えていた。
役が憑依したかの様な演技を評価されている彼女は演じている時に自分が本当にその役として生きて来たと思うと言っていた。
自分が他人になり、何者なのかを忘れる事で名前は心の均衡を保っている。
それなら辛い思いをして向き合うより女優として今まで通りに生きていく方がいい。
しかし悟は知ってしまったのだ。本当の恋というものを。
女優として生きて行く名前を想像しただけでも胸が張り裂けそうになるのだから笑えない。
映画に集中したいと言った彼女はもう二ヶ月程高専から離れていた。このまま辞めてしまうのではないかと思うとどこかホッとする自分と酷く絶望する自分が鬩ぎ合う。

「悟は名前の事が好きなんだね」
「は?…いや、あー、まぁ…そうらしい」
「五条にしては素直じゃん。ま、手強いと思うけど頑張れば?でも名前泣かしたら殺すからな」
「親友の初恋なんて心躍るよ」
「…面白がってんじゃねぇよ」

二人がまさか応援してくれるとは思ってもなかった悟は悪態を吐きながらゆるゆるの口元を隠した。そんな天邪鬼な同期の耳が真っ赤に染まっている様を傑と硝子は微笑ましく見つめている。
誰もが何かしら抱えてイカれながらも生きているこの地獄でどんな形であれ二人が笑える未来があればいいなと思った。

「てか、流石にもう遊び回ってないよな?」
「んなの当たり前じゃん」
「へぇ?全部切ったのかい?」
「名前じゃないと勃たねぇー」
「最悪。クズ。死ね」
「ハハッ!本当悟は期待を裏切らないよ」

名前のファーストキスを奪った責任を取りたいと純粋に思った悟はその日のうちに女性関係を全て絶っていた。
暫く五月蠅かった携帯も週刊誌が出ると少し大人しくなる。非術師はそれで諦めが付いたのだろうが次は五条に群がる御令嬢たちが騒ぎ立てた。
それでも一級術師である名前は何も気付かず普通の任務だと思い、向けられた呪詛や呪霊を祓いまくっていたので悟はきゅんとときめいた。
ときめく場所がおかしいが、まぁ呪術師はイカれているので仕方ない。
名前が欲しい。そう思えば本当に他の女に勃たなくなったし、一途に想いを寄せる事が出来るそんな自分自身が悟は好きになれた。
顔だけは自信があると言った名前もいつか自分自身を好きになれるように支えたい。でもそれは別に彼氏じゃなくて側にいられるなら友達でも何でもいいのだ。
悟は愛も知っていた。
生まれて初めての感情は楽しいだけでは無いけれどそれすら悟は愛おしかった。



  
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