ラベリング


「傑さぁ土曜日暇?」
「ん?空いてるけど何かな?」
「デートしない?」
「おい、ちょっと待てよ。何で彼氏じゃなくて傑なんだよ」
「え?彼氏の自覚あったの?」

ん?そう言われれば?またお互いに首を傾げている二人に傑と硝子は笑いを隠せない。

「ふふっ、それで?何で私なんだい?」
「あぁ、悟が呪術界の至宝だって聞いたから週刊誌とか顔モザイクで載るのも駄目かなって」
「ふぅん。別に俺は気にしないけど」
「いやいや、悟の婚約者?とかに殺されたくないよ」
「ふ、ハハッ!まじで名前やめてよ、腹筋割れそうっ」

何がそんなに面白いのかと至って真面目に悩んでいた名前はまた首を傾げる。

「私は?それこそ名前のファンに殺されるんじゃないのかい?」
「え?傑は強いし、私はそんなに過激なファンいないよ」
「ククッ、名前も強いじゃん。てか誰でもいいのがウケる」

あぁ、成る程?ここで二人が何に腹を抱えて笑っていたのか気付く。まぁそれも見当違いなのだけれども。
二人は悟の表情を見て笑っていた。成り行きで付き合っていると思っている悟だが、傑をデートに誘った名前を見てあからさまに不機嫌になった自覚の無さが面白くて仕方ないのだ。
彼女の言葉ひとつに動揺している悟を見ているのは死ぬ程面白いと二人のにやにやが止まらない。

「名前はデートで何したいの?」
「ん?硝子流石だね。そこなんだよね。デートって普通何するの?」
「オマエ分かんないで傑誘ったの?まじで呆れる」
「えーなら悟教えてよ」
「…しょうがねぇから俺がデートしてやる」

ケタケタと傑と硝子の笑い声が教室に響いた。自覚の無い悟と真面目にデートを想像している名前は終始首を傾げたままだった。



悟は困惑していた。
デート当日。柄にも無く約束の十分前に高専前に行くと名前が台本を読んでいた。
読んでいたと言ってもそれこそドラマを見ているかの様な臨場感溢れるものだったので声を掛けるタイミングを見失っていた。

「ふぅん?何で私が犯人だって思うの?」

「ふ、ふふっ!本当に………うーん違うなぁ」

「なぁネタバレやめてくんない?」
「悟!来てたなら言ってよ」
「俺が呪詛師だったら死んでんぞ」
「そ、それは確かに?」
「クソ真面目。ほらデートするんだろ」

完璧な演技だと思っていたが何か彼女は気に食わなかったらしい。そこで漸く声を掛ける事ができた悟は手を差し伸べる。
一瞬目を見開いた名前は悟の手に指を絡める。まさかの恋人繋ぎに胸が高鳴る悟は誤魔化すように足を動かした。

とりあえず適当に歩いて適当にランチをしたまでは良かった。女子たちが一番喜んでいたなと悟は過去の経験からウィンドーショッピングでもするかと思い、手を繋いだまま何の色気もない呪霊トークに花を咲かせながら歩いていた。次はどこ行く?と話していると遠巻きに自分達の事を見ている人の数が尋常じゃない事に気付いた。二人ともサングラスをしていても別次元のスタイルの良さは隠せなかった。

「名前じゃん!」
「えっ嘘、彼氏?」
「イケメン」
「まじで美男美女」
「彼氏いたのかよ…」

一応帽子を被りサングラスをかけ変装している彼女に直接声を掛けて来ることは無かったがどんどん口数が減って行く名前に悟は立ち止まって顔を覗き込む。

「名前?大丈夫か?」
「悟!あんまり顔近づけないで。悟に迷惑が掛かっちゃ、……え?」

名前は見られているのが不快だった訳では無く自分の事を心配してくれていた事にきゅんとときめいた悟は思わず名前の唇を塞いでいた。コンッとサングラス同士が軽く触れ、周囲から悲鳴があがる。

「え、と…私初めて、で。どんな顔していいか分かんない…」
「…笑えば?嫌なら殴ればいい」
「いや、じゃ…ない」

名前は自身の唇を指でなぞる。少しカサついていて、でも柔らかくて暖かかった。
ドクドクと五月蝿い心臓は驚いたからなのかそれともーーと考えかけてやめた。
周りが余りにも騒ついていたからだ。悟の顔を見る事も出来ずに手を引いてとりあえずタクシーに乗り込んだ。

「ーーまでお願いします」
「…どこ行くの」
「私の家」

繋いだままの手がやけに熱いと思ったのはどちらだったのか。


え?女が家に呼ぶって事はそういう事だよなと無駄に広いホテルの様な部屋のリビングでひとりそわそわしている悟の隣に座った名前はぼんやりと先程の中断していた思考を再開していた。
これが恋というものなの?胸が高鳴って演じている時のような高揚感があったけど……いや…違うよね?今落ち着いている自分の心臓はそれが恋なら説明が付かない。きっと初めてのキスに驚いただけだろう。それにしても悟の唇は柔らかかったと名前はもう一度自分の唇を撫でた。

「悟」
「…何だよ」
「そろそろ帰ろっか。今日台無しにしちゃってごめんね。でもデート楽しかったよ。ありがとう」
「あー俺も悪くはなかった、かな」
「私、恋愛物のオファー受けてみるよ」

そっかと素っ気ない返事をした悟は何故自分がこんなにがっかりしているのか分からなかった。
高専までのタクシーの中で繋がれていた自分の左手をぼうっと見つめて考える。
手を繋いだ事なんて数え切れない程に経験しているのに自分の手が特別になったかの様な気がする。美味しいと名前が笑ってくれると自分もより美味しく感じたし、何より触れた唇の感触が未だに忘れられなかった。
あぁ、これが恋なのか。
もやもやとした気持ちに名前を付けるときゅうっと心が締め付けられるような甘くて柔らかい不思議な感覚に満たされた悟は悪くないと小さく微笑んだ。





「五条やるじゃーん」
「期待を裏切らないね」
「あぁ、私殺されるんじゃ……」

今日も今日とて絶妙な遅刻をして来た悟はにやつく二人と真っ青な一人を見てあぁ、この前のデートの件だなと納得した。
パンピーは相変わらず暇だなと硝子が差し出した週刊誌を眺める。

"人気女優の初ロマンス!相手はイケメン一般人"

まぁ俺クラスじゃないとコイツの隣は務まらないだろ。と思いながら手を繋いで笑っている写真とキスをした時の写真につい口元が緩む。

「顔隠されててもイケメンって分かるの流石俺だわ」
「中身クズだけどな」

すかさずツッコミを入れる硝子も様子を伺っていた傑も素直に驚いていた。
あの悟が柔らかく微笑んでいるのだ。
名前は夜道は気をつけようなどブツブツと呟いている事からどうやら恋に堕ちたのは悟の方だったかと推理する。

「悟、私死ぬのかな」
「死なねぇよ!朝から物騒だな。てか名前は大丈夫なの」
「なんの契約も違反してないし、寧ろ映画も決まって社長が死ぬ程喜んでるよ」
「へぇ。公開日決まったら教えて…って傑も硝子もその顔なに?」
「べっつにー?」
「名前おめでとう。三人で見に行くよ」
「嬉しい!頑張るね!」

この地獄に似合わない穏やかな朝に四人で笑い合った。



  
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