恋とは



「悟と付き合う事になった」
「は?名前、何か脅されてんの?」
「その顔に騙されていないかい?」
「私の力の事高専に黙っててもらう代わりにね。傑と硝子にもそのうち話せるようになると思うから黙ってて欲しい。それに悟の顔は普通に好き」
「え、まじで脅されてんじゃん」
「付き合ったりしなくても私たちは言わないから安心していいよ」

二人の自分に対して辛辣な態度よりも普通に理由を話した名前に驚いた。
それならばあの条件を呑む必要がない。
やはり自分と同じ様に彼女も俺の事を知りたいのか?と悟は少し戸惑う。

「違うよ?悟と付き合うのは私も興味があったからだよ?脅されてる訳じゃない」
「あぁー役作り?名前って恋するヒロインみたいな役しないよね?」
「硝子!知っててくれたの?嬉しい!そうなの、恋に焦がれる女子高生とか理解出来なくてNG出してるんだよね」
「あー好きにさせてってそういう事ね。俺を実験台にするとかまじで生意気」

成る程。悟はすんなり納得出来た。
たまたま出した条件が彼女にとってはプラスにしかならない物だった。それだけだ。
チクリと痛む胸が何であるかなんてまだ悟には分からない。
名前もまた不機嫌に見える悟が何を考えているかなんて到底分からなかった。

「好きって気持ちが分からないのかな?」
「そうなの。彼氏取られて怒るとかは分かるよ。自分の玩具取られたと思えば簡単。でも玩具が手に入らなくて毎日悩んだり泣いたり切なくなるなんて理解出来ない」
「ふぅん。でもそれ五条じゃ無理だよ。勿論夏油もなー」
「そうなの?」
「二人ともクズだから本気の恋愛なんてした事ないだろ」

傑と悟は互いに目線を送り合い返答に困る。
名前の例えは分かりやすかった。
確かに玩具が欲しくて堪らなくて泣き喚いたり誰かに相談したりそれを考えると何も手に付かない、なんて経験はした事すらない。
気付いたら自分の手の中に堕ちているのだからそんな面倒な思考を持ち合わせた事は二人とも一度もなかった。

あれ?好きって何だっけ?と傑と悟は心の中で首を傾げる。

「ほらな。名前ならクズ共じゃなくていくらでも代わりいるじゃん」
「でも事務所からどうせなら話題になるようなイケメンとって言われててさぁ。あ、勿論悟の顔が雑誌に載ったりとかは無いから安心して?」

一般人だし、載るのは私だけと笑った名前に目を見開く。自分が一般人だと呼ばれる日が来るなんて世界がひっくり返ったとしても悟にとっては有り得ない事だった。
彼女にとっては自分はただのイケメンなのだと思うと腹立たしいようなむず痒いような相反する気持ちが意外と悪くはない。
一方で名前も悟が自分の言葉で表情を変えるのが何故か心地良いと思っていた。

それにしても意外だったなと名前は考える。それなりに一緒に過ごして来て悟と傑が遊び回っているのを知っていた名前は二人共恋なんてお手の物だと思っていたのだ。
好きが分からないからキスやセックスをしたいだなんて余計に分からない名前はある意味で純だった。
好きでもない女の子と遊ぶ為に態々時間を割く意味が分からない名前はそれが性欲の為だとは思わない。

同期三人が首を傾げるのを横目に硝子は盛大な溜め息を吐いた。

「まともな奴はいないのか…」
「あっ私そろそろ行くね。撮影後に任務だから遅くなるの。硝子気をつけるけど夜煩くしちゃったらごめんね」
「気にしなくていいよ。頑張れー」

ありがとうと硝子に抱き着いて教室から出て行く名前を三人はぼんやりと見つめた。
あんな普通の、いや女優であるから普通では無いのだけれど、普通の非術師みたいな奴が自分たちと同じく一級術師だとは到底思えなかった。まぁ彼女もどこかしらイカれてるんだろうなと三人はそれぞれが思うところで納得した。



  
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