お互い様



「オマエ動けんの?」
「動ける。とは思うけど悟の基準が分からないよ」
「普通に祓えるか聞いてんの」
「んーだからその悟の"普通"を私に求めないで欲しいかな」

山道を歩きながらどうもこの女とは馬が合わないと出かけた溜め息を呑み込んで足を進める。名前の実力を見る為に二人で山を登っていた。
傑と硝子は別の任務に出ている為、悟が割り当てられたのだか傑よりもド正論を語る彼女とは碌に会話も続かない。

「黙ってりゃ美人なのに」
「それ自分に言ってる?」
「あ?オマエだよ。オ マ エ!」
「はいはい。最高の褒め言葉ありがとう」

綺麗な笑顔を貼り付けた名前は悟も黙ってればイケメンなのになとチラッとサングラスの奥に輝く空色の瞳を盗み見た。
今まで見てきたどんな物より綺麗だと初対面の時に思った。それと同時に彼もきっと何かを背負っているんだろうなとも思った。
口の悪さ、不遜な態度。それで均衡を保っているのだ。自身と同じ様に。漠然とそう思った。

「オマエってどれが本当なの」
「……」
「おい、聞こえてんだろ」
「名前。オマエじゃない」
「はぁー。名前はどれが素なの?」
「どれも私だけど、どれも私じゃない。かもねぇ?」

あぁ、やっぱり好きになれない。
ド正論も質問をかわす様な言い回しも悟の不機嫌な心を更に逆撫でる。
真に受ける自分も悪いのだろうが知りたいと思ってしまったのだから仕方ない。
土を踏みしめる音だけがやたらと響いた。

「なら、俺見てるわ」
「死にそうになったら助けてよ」
「へーへー。」

悟は適当に返事をしながらもサングラスを外した。名前の一挙一動すら逃さないと目を光らせる。
そんな悟に気付いているのか呪霊に向き合った名前はニヤリと口角を上げた。
手を前に出してグッと拳を握り締めると三級程度の呪霊は音もなく塵になった。

「どう?動けた?」
「…んな雑魚じゃ分かんねぇよ」

そう分からなかった。てっきり彼女がその身に隠してるドス黒いのもを使うのかと期待していた悟は拍子抜けした。
ただ呪力を放って捻り潰しただけだった。

「それ使わねぇの?」
「へぇ!六眼って本当凄いね」

名前は悟から指を差された胸から引き出すように刀を取り出した。黒い呪力に覆われたそれが現れるとピリッと張り詰めた空気に変わる。

「それなに?」
「…親の形見だよ。これに宿ってる呪霊を使役して戦うんだ」

嘘だ。悟は言いかけた言葉を飲み込む。
呪霊はどう見たって名前自身に宿っていると六眼が告げている。何故自分の眼を知っているのにバレバレの嘘を吐いたのか。それでも彼女の事を知らない悟は軽々しく暴いていい物だとは思えず言葉を詰まらせた。

「悟は意外と優しいんだねぇ」
「…はあ?」
「ごめん、私は此れと向き合う覚悟が無いんだよね。まだ知らないふりしてくれたら嬉しい」

その内話すからと柔らかく目を細めて微笑む名前は本物の名前なのだろうか。
どこか他人事の様に話す彼女は掴みどころが無いというよりは偽物のようで悟は更に引き込まれて行く。

「いいけど…その代わり俺と付き合ってよ」
「いいよ?」

え?は?
悟は体感で三分くらいはフリーズした。意地悪な条件を取り付けてやろうと思ったのは本心だけれどまさか付き合ってなんて言うつもりは一ミリもなかったのだ。それにこの女はいいよって言ったのか?俺はコイツを好きなのか?名前も俺を好き?グルグルと終わらない思考を瞬きの一秒にも満たない時間で無理矢理終わらせた。

「何その顔?私の事務所は恋愛自由だよ。寧ろ私は恋をしろって口酸っぱく言われてるからそんな条件有難いくらいなんだけど?」
「…俺の事好きなの?」
「好きにさせてよ」

なら帰ろうと歩き出した名前の背中を睨む様に見つめた。
悪戯っぽく微笑んで見せた瞳の奥に懇願する様な切ない色を感じたからだ。
臨むところだ。
恋愛なんて朝飯前である悟は不敵に笑う。


これから自身に訪れる最初で最後の恋である事を彼はまだ知らなかった。



  
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