happy birthday (し)


さわさわと陶器のような白い頬を撫でた。
五条の献身的なケアの賜物かしっとりとしていて暖かい皮膚は確かに生きていると教えてくれるのに不安で堪らない。
点滴だとか通常の医療を受け付けないのはまだいい、私の反転術式を受け入れてくれないのが悔しくて、辛かった。

五条と駆けつけた時もう心臓も止まっていて余りの出血量に一瞬身体が動かなかった。
それでも諦めたくなくて反転術式を直ぐに使ったけど名前はそれを拒絶したんだ。
まるで私は必要ないと言われたみたいで言葉が出てこなかった。
名前が私にそんな事言う訳ないって分かっているのにあの時の自分の無力さを思い出すと心がぐちゃぐちゃになって震えが止まらない。

「はぁ…」

静かな医務室に情けない溜め息がよく響いた。
今日は珍しく五条と夏油が同じ任務に出ている。
聞いてるこっちがノイローゼになりそうなくらいに煩い五条がいないとここだけ別世界なのか?と思うくらい静かで澄んだ空気が流れていた。
名前の周りはいつもそうだった。


『硝子よろしくね』


入学した日に握手じゃなくてハグされてぶっ飛んだ奴だなって思った。
聞けば双子の五条と付き合っているらしく正気かよって盛大に引いてなるべく関わらないようにしようと距離を置いた。
なのに名前はそんな私の気持ちを無視して気付いたら隣にいる変わった奴だった。
名前の纏う澄んだ空気に私もいつの間にか絆されてしまったんだ。

『私が死んだら硝子は何もしなくていいからね』
『…は?』
『親友の身体、捌きたくないでしょ?』
『捌くって…もっと言い方あるだろ』
『ふふ、硝子はただ悲しんでくれたらいいよ』
『…縁起でもない話やめろ』

正直その言葉に救われた。
医師免許も取るつもりだし、解剖は死んだ仲間を無駄にしない為にも必要な事で私がすべき事だ。
私には悲しむ時間もそれに心をすり減らす余裕もない。
だから必要以上に人に関心を持たないように、心を置きすぎないようにしていたのに、名前は悲しんでいいって言ってくれた。
そんな未来は望んでいないけど、いつか先に逝った時、私は名前を解剖しなくていい、泣いていい、未来をくれた。

『硝子大好きだよ。悟の次にね』
『…お前は一言余計なんだよ』
『悟!傑!聞いた?!硝子がデレた…!』

騒ぐ双子を夏油と宥めるのがいつもだった。
呆れながらもそんな光景にいつも癒されていたんだ。
男の趣味悪いし、距離感もバグってぶっ飛んだイカれた奴だけど、誰よりも私たちの事を理解してくれて誰よりも優しい奴。今回の自己犠牲はまだ許してないんだから早く起きて大人しく怒られろよ。

「…名前がいないと退屈だな」

細くて白い指をそっと握って瞼を下ろした。
私から手を繋ぐのは初めてだったか?
すっかり名前に毒されているらしい。
ご飯食べる時もお風呂入る時も名前の名前を呼びそうになって肩を落とす。
いつの間にか一緒にいるのが当たり前に思う様になったのはお前の所為なんだから責任取ってよ。

「硝子お疲れー…え、なに、これ」
「え?…何があったんだい?」

二人の戸惑う声に目を開けると医務室一杯に薔薇の花が溢れていた。

“硝子お誕生日おめでとう”

「っ!名前!!」

駆け寄ってぼろぼろと涙を流す五条に、立ち尽くしたまま茫然と薔薇を眺める夏油。
そっか。お前の所為ですっかり誕生日なんて忘れてたよ。眠っててもサプライズ好きなのは変わらないんだな?本当笑える。
笑えるのに…涙が止まんないわ。

“悟も硝子も泣かないでよ。傑は片付けは誰がするんだい?ってツッコむ所でしょ”

「名前…ふふっ、そうだね。間違いなく私だろうね」
「…起きて直接言ってやれよ。硝子泣かせたのはオマエ何だから責任取れよ」

“ごめん…もうちょっと掛かるんだ。でも親友のお誕生日はどうしても祝いたいじゃん。悟も傑もちゃんとお祝いしなきゃ怒るからね。じゃあ…また、ね”

「馬鹿名前…祝うに決まってんだろ!早く、はやく、起きてくれよ…」
「悟…」

本当馬鹿だよ。
こんなんに呪力使ってる余裕あるならさっさと起きろよ。起きて硝子って呼んで、うざったいくらい抱き締めてよ。

『硝子おめでとう。大好きだよ。…悟の次にね』

頭の中直接にふわりと囁かれた言葉に余計涙が止まらない。一言余計だって何回言ったら分かるの。親友が眠ったままでつまんないんだ。私の為にも早く起きて、直接ありがとうって言わせて。

泣き崩れる五条を支える夏油を見てたらなんだか笑えて来た。

「…何笑ってんだよ」
「ふふ、眠ってても振り回すのは相変わらずだなと思って」
「ハハッ、確かにそうだね。こんな大量の薔薇、どうしろって言うんだろうね?悟も片付け手伝ってくれよ」
「……嫌だ。面倒」

夏油と顔を合わせて笑った。
本当は片付けるんじゃなくて保管しときたいんだろ。名前がいないと本当に素直じゃないんだから。
名前、安心して。クズ共の面倒は私が責任もってみるよ。
無理してくれてありがとう。
起きたら買い物に連れ回すから覚悟しとけよ。心配かけたんだ、誕生日プレゼント買わせまくるからな。


名前。私も大好きだよ。




  
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