夢でもいいから



「ーー、名前いつまで寝てんの?早く起きないと浮気しちゃうよー?」


名前が倒れてから一ヶ月以上が過ぎた。
悟の瞳は三日程度で元の蒼色になり名前がいない事を除けばいつもの日常に戻っていた。
悟とは散々話して殴り合って、私の気持ちを全部ぶつけて、悟の気持ちも知れた。
私は親友と共に高専から世界を変えることにしたんだ。私だけじゃなくて四人で笑える世界にする。悟とも仲直りできたんだ、だから名前、安心して目を覚ましてよ。
紅葉が終わってしまう前に起きてくれよ。
またあの時の話をしよう。

「なぁ…まだ時間かかんの?夢にも出てくれないくらい忙しいのかよ。名前の声が聞きたいんだけど。俺が寂しくて死んだらどうしてくれんの?」

悟が名前に必死に話しかけているのを医務室のドア越しに聞いて、その場を離れた。



「夏油、医務室行って来た?」
「行こうと思ったんだけど、悟がいたから止めたよ」
「はぁ…アイツ大丈夫なの。また自殺とかしないよな?」
「名前が生きてるからしないだろ…でも切羽詰まった感じはあるね」
「名前に話しかけてもう二時間は経ってるからな。狂気だよ」

二時間…確かに狂気的だ。
名前と悟は互いに半身と呼ぶくらいいつでも一緒だった。
遠方の任務の時ですら夜は名前が悟の元にトんでいるらしい。
今は近くにいるけれど話せない事に悟は限界なんだろう。触れて眠ると名前が夢に出て来てくれるのもあれ以来ないそうだから悟が狂ってしまうのも仕方ない。
気分転換でも、と外に連れ出しても私との間に名前が見えているのか、何度も名前を呼んでは切ない顔をしているのだからお手上げだった。

「悟も眠ってくれていれば良かったかな」
「先に起こさせたのは早くお前と話して欲しかったからじゃないの?名前は自己犠牲大好き人間だから五条と夏油と私の事しか考えてなかったんだろ」
「そうだね…目を覚ませないのは名前にとっても予想外なのかもね」

時間があれば硝子が名前の様子を見に行っている。
あの日硝子が反転術式を施した時にはもう手遅れだった。最後に話せたのも奇跡的な事だったのに、名前は生きている。
風呂に無理矢理入れられた時に見た腕も足も元通りだった。
それを考えると何らかの無理はしているのだから一ヶ月、目覚めなくても不思議ではない。けれど悟はそうは思えないんだろうな。

「今日診た時、呪力量が前と変わらないくらいには回復してたからそろそろ起きると思うけどな」
「私の術式と呪力を吸収して自分の呪力を失うのか?使い勝手は悪そうだね」
「使うつもりも無かったから言う必要もないって思ってたんじゃない?」
「ふふ、名前らしいね」

悟は極彩色の世界だと言っていた。
室内はまだマシだったらしい。外に出ると彼は吐いた。木や花、自然も人と同じように様々な色を波の様に悟にぶつけて来たそうだ。そんな不思議な瞳の力は名前本人ですら全ては分からないのだから、得体の知れない術式を使うつもりは本当になかったのかもしれない。
私には想像も付かない世界で名前に紅葉はどう映っていたんだろうか。
名前にも笑っていて欲しいから起きたら君の事もっと教えてくれるかな。

「…名前さ、筋力も落ちてないし、点滴も受け付けないんだよね」
「……は?」
「アイツの事は変わらず親友だと思ってるし、好きなんだけどなぁ。アイツ何なんだろうな」

「名前は名前だろ。俺と繋がってんだから点滴なんていらねぇんだよ」

「悟…いや、いくら双子でもそんな、」
「名前は胎内記憶があんだよ。俺らは普通の双子じゃないからさ、変わらず接してあげてくれない?」
「…五条が心配しすぎて起き辛いんじゃない?」
「はあ?!」
「そうそう、悟が五月蝿いからまだ眠っていたいんじゃないかい?」

名前は喜んでんだよ!と口を尖らせた悟はいつも通りだった。
最強の双子は人とは違うらしい。
まぁ、悟と名前は揃ってイカれてるんだから特別驚きはしないけどね。
持ち直した悟がいつまで続くか分からないから、何にせよ早く目覚めるのをオススメするよ。



  
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