星空に笑う



月のない夜空にギラギラとダイヤモンドの様に輝く星たちが浮かんでいた。
触れそうなくらい近くで輝きを放つそれに手を伸ばしたいのに身体が動かない。
縫い付けられた様に動かない身体はどうやら水の上に浮いているらしい。
ゆらりと波に身体が揺れるのに手すら動かせない。
どうしようもなくこの蒼白く一際眩しく輝く星に触れたいのは何でだろう。
ぼんやりとした頭では答えを導き出す事はできなかった。

ーー暖かい。

身体を攫う波がやけに生温い。
ゆらり、ゆらり。
ゆっくりとそのまま水の中に沈んで行く。
不思議と怖くはなかった。
暗い水中でもあの一等星が見えたから。
もう一度手を伸ばすと今度は指が届いた。
あれ?いつの間に身体が…
ゴボッと口から漏れた空気が水面に上がり星に触れると、轟々とそれを中心に刺す様な冷たい波のうねりが渦巻いた。




「あ、れ…星は…」

「ーー!!ー!」

重たい瞼を上げればぼんやりとした視界でも分かる蒼白い光が私を見下ろしていた。
ぽたぽたと暖かい雫が星から溢れる。

「ー!名前!!」

星に呼ばれている。
そう、私の名前は名前だ。
一級呪術師で、今日は…傑と任務で…彼が…?

「すぐ、るは」

何故か掠れた声しか出せない。
口の中も鉄っぽくて不快だった。

「ごめん、名前…ごめん…私はここにいるよ」

そう。良かった。
優しくて理想を真っ直ぐに追いかける孤独な彼を私は引き止める事ができたらしい。
あ、そっか。
手が動かないんじゃなくて手が無いんだ。

私は人の呪力や術式を自分の物に出来る。それは一時的で緊急の時にしか使わないものだった。
なんなら初めて使っちゃったよ。
呪力量が減ってもいない飽和した状態の私に傑のそれは受け止めきれなかったんだなぁ。
彼を止めたくてとっさに全てを奪った私は右手足を斬り捨てる事で体が弾け飛ぶのを防いだんだった。ぼんやりとした視界なのにやけに意識がはっきりとしているのも、無くなった手の感覚があるのも気持ち悪い。

でもさっきは星に触れられたのになぁ。

あの刺す様な激流を思い出した。
冷たくて獰猛なエネルギーは不思議と痛くも怖くもなかった。寧ろ私は初めからあれを知っていたような懐かしささえ覚えた。

「名前…死ぬな…」

…え?…私死ぬの?
ぽたぽたと雫を落としているのは悟だったんだ。
ふふ、いつも私を照らしてくれる悟は星に違い無いよ。

悟、大丈夫。死ぬ時は一緒だって約束したでしょう?半身の愛おしい悟を置いて行ける訳がないでしょう?

私は死なない、大丈夫。




  
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