expression


表情。
自分にそれが極端に欠如しているのは自覚している。
しかし反対にこいつのは余剰過ぎるのではないか。

一体どうなっているのか、と目の前にある阿保みたいな顔の頬を摘んでみたら、そいつは目を丸くしてから照れたような嬉しそうなよく分からない色を作って笑った。
こんなに人の表情とは一瞬で変わるものなのか。こんなに微妙な変化があるものなのか。おそらく何十年かかっても俺には理解できないだろう。

摘んだ頬は予想以上に柔らかかった。引っ張ったり抓ったりしてみたがその度表情はころころ変わる。仕舞いには涙目になったのでいい加減手を離してやった。
潤んだままの眼でこちらを見ながらそいつは俺が抓った方の頬を撫でた。赤い跡ができていた。こうまでして俺は何を求めていたのか。

暫く考え込んでいたらさっきまで自分の頬を撫でていたはずの手がこちらに伸びて俺の頬に触れた。温かかった。
何と言われたか覚えてないが、あいつは笑っていた。片頬の赤い跡が様にならない。
俺は自分が何を思っているか分からない。まさかこの阿保に毒されたのか。多分、むかついている。
だから阿保みたいな赤い跡を食んでやった。


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