Blackout


外は、大雨だった。
なんでも台風が近づいているそうで、雷も鳴り、強風で窓はガタガタ震えていた。


水無月悠衣は雑用係こと六番隊の部屋で資料を眺めていた。
集中力も切れかけた頃、窓の外が一瞬光り、直後に耳を裂くような轟音が聞こえた。同時に、視界が真っ暗になった。

「停電だ…かなり近くに落ちたみたいですね。雷」

「いちいち煩い。言われなくても分かる」

暗闇から無愛想な声だけが聞こえる。それは六番隊隊長、巳影春夜のものだった。

五分程経った所で、目が慣れて来た為、ぼんやりと物影が見え始めた。
突然、春夜の席からギィ、と椅子の軋む音がした。
そちらに目を向けると、人影が立っていた。

コツ、コツ、コツ、
ガチャリ。

人影はすんなり出口まで歩き、出て行ってしまった。

「…え?……隊長?」

当然、返事はなかった。
何の断りも無く、悠衣は暗い部屋に一人ぼっちにされてしまった。

途端に、少し怖くなって来た。きっと昨日、ホラー番組を観たせいだ。
気を紛らわす為に色々考えていると、ふとこんな想いが浮かび上がった。

私はあの人にいつも振り回されてはないか?
だったら、こんな時ぐらい私も好き勝手してやろうじゃないか。どうせ電気が点くまで帰って来ないだろう。

悠衣は立ち上がり、春夜の席を手探りに確かめた。途中で何かが手に当たったが気にしない。
椅子にどっかりと腰を下ろし、脚組みをし、胸を張ってみる。ちょっとした優越感だった。心なしか自分のより坐り心地が良いように思える。これで景色が見えれば最高だったのだが。

突如、視界が真っ白になった。強い光に目が開かない。

「…お前はそこで何をやっているんだ?」

おずおずと目を開けてみる。人影はあるものの顔が見えない。
しかし、この声は…

「隊長?出て行ったんじゃ…」

「非常用の懐中電灯を取りに行っただけだ。仕事が出来ない」

ここでやっと悠衣の顔から懐中電灯の光が反らされた。

「もう一度聞く。お前は何がしたいんだ?」

「いやあ、それはその…ちょっと優越感を感じたかったといいますか…」

「…おい」

しどろもどろの話の途中で、いつもよりワントーン低い声で春夜が呟いた。何か発見したらしい。
照らす先は机の上。
そこには停電前まで書いていた報告書。と、ぶちまけたコーヒー。

「…あ」

どうやら手探りついでに飲みかけのカップを倒してしまったらしい。
悠衣の顔はみるみる血の気が引いて行く。

「ご…っごめんなさあぁああい!!!」

雷と共に、悠衣の叫び声は署内に響き渡った。


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