春夜は窓の外を見ていた。
「何を見ているんですか?」
その隣で、部下が身を乗り出し視線の先を追う。
黒い窓には、静かに光りながらはらはらと落ちる雪が映し出されていた。
それをただぼんやり眺めている上司の横顔に、悠衣は少し口元をもたげた。
「感傷的ですね」
感傷的の『か』の字も持ち合わせていなかった春夜は無表情のままに視線を悠衣に移した。
「雪は感傷的なのか?」
今度は悠衣が少し驚くことになった。うーんと小さく唸ってから言う。
「雪って静かで綺麗ですけど、少し、ほんの少しだけなんとなく寂しい気持ちになりませんか」
春夜は窓の外に目線を戻した。『感傷的な雪』をもう一度確かめるように。
「…雪を見ていると」
赤い瞳がゆらりと揺れた。
「確かに辛くなるな、見ているだけで寒い」
顔をしかめて僅かに首を縮めた上司を見て悠衣はくすりと笑った。
二人の背後の机には、コップに注がれたコーヒーの白い湯気がふわふわと立ち込めていた。
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