しりたがり


彼女は知りたがり屋だった。
わからないことがあるととことん追求しないと気が済まないらしく、彼女の中に次々と芽生える疑問の蔓に僕はしょっちゅう巻きつかれていた。

「私が死んだら何人の人が泣いてくれるのかしら」

ある日彼女はそんなことを口走った。彼女の瞳はいつもの好奇心を爛々と含んでいた。僕はそんな彼女の目をまっすぐに見返して「少なくとも僕は泣くよ」と言った。彼女は興味深そうに目を見開いたがすぐに手をついて立ち上がった。

「ありがとう。でも私、この目で見てみたいの。人は死んで何処に行くのかも、人は死ぬ直前に何を思うのかも。全部全部知りたいのよ。今すぐに!」

へえ、それで?と僕が聞くより早く、彼女は開け放した窓から飛び立った。あんまり楽しそうに気持ちよさそうに飛んだから、彼女の背中に真っ白な翼が生えているのを錯覚したほどだった。
落ちてく彼女、誰かの悲鳴、救急車のサイレン。全てがゆっくりで一瞬だった。

馬鹿だなあ。それじゃ飛び降りた人の気持ちしか分からないじゃないか。しかも君のそれは他の人のそれじゃない。悩みや苦しみや絶望を持っていかなかっただろう?分かりっこないんだ生も死も。君があと何万回生まれ変わったとしてもね。

彼女の喪失を前に、僕の目からは一粒の涙も落ちなかった。


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