つわもの


桃太郎は一人、山道を歩いていた。
そこに、どこからともなく荒々しい格好をした男達が現れる。

「お嬢ちゃん、この辺は危ないから気をつけねぇといけねぇよ」

そう言うと男達は下品な笑い声を上げる。

「うん、親切にありがとう」

桃太郎は礼を言うとすたすたと男達の脇を通った。あまりに堂々とした態度に男達は一瞬、呆気に取られる。

「おい、ちょっと待ちな」

一番体格のいい男が慌てて呼び止めた。桃太郎は不思議そうな顔をして振り向く。

「何か用か?この道は危ないらしいので私は早く帰りたいんだが」

「お前…天然か?」

「ああ、一応天然かな」

桃太郎は桃源郷の桃の木を思い返した。天然といえば天然だが、桃太郎を創り出したのは人の想いだ。人の想いとは人工に分類されるのだろうか。
否、成熟するまで人に育てられるのだから養殖か。桃太郎が言い直そうとした時、その眼前に刃が突き付けられた。桃太郎は青ざめた。

「まさか、危ないって…」

「そうさ。ここは俺達山賊の縄張りだ。金を寄越しな」

「まじかお前ら…」

桃太郎は大袈裟に息を吐いた。

「私はな、熊が出るか妖が出るかはたまた変質者が出るものかと期待…いや用心していたんだ。それがお前らのような山賊だと?興ざめもいいとこだ」

「あ?なんだと?」

男たちの醸し出す邪険な雰囲気に構わず桃太郎はぶつぶつと毒を吐く。

「いや、薄々予感はしていたがまさかそんなはずはと思ったんだ。たいした力もない輩がまして自分のことを危ないとは…ああ恐ろしい。井の中の蛙というものは真に恐ろしい!」

ひゅうと宙を切る音がして桃太郎は僅かに身体を後ろに反らした。桃太郎の横に生えていた木に深々と巨大な刃が突き刺さった。

「おとなしく金を渡しゃあ命は取らないつもりだったが…」

桃太郎を男たちが取り囲む。頭とおぼしき男が叫んだ。

「野郎ども、この女を引っ捕らえろ!身ぐるみ剥いで死ぬまで犯してやる!」

わあああっと他の男たちが歓声を上げた。

「舐めた口を利いたことをあの世で詫びな」

一人の男が下品な笑い声を漏らしながら言った。桃太郎は薄く眉間に皺を寄せた。

「舐めた口はどっちだ」

腰に差した刀の柄に手を置く。男たちは一瞬身構えたが、頭の男がそれを叱責した。

「たかが女の武士ごっこだ。やってしまえ!」

それが合図に四方八方から男たちが桃太郎目掛けて突撃した。

「力量も測れぬ雑魚どもが…」

なんともあさましい光景に、桃太郎は舌打ち混じりに呟いた。





ああ、それは大変だったな、と犬は興味なさげに言った。
人間が束になって襲い掛かったところで桃太郎には敵わないだろうし、なにより本人は今無傷で目の前にいるのだから結果は分かっている。
そんなことよりなぜまた我が物顔でうちに上がり込んでいるのか。犬にはそれが気にかかった。

「まったくだ。きびだんごを買いに出かけただけだったんだが、思わぬ戦利品を拾ってしまったものだ」

「戦利品…?」

桃太郎の言葉に犬が訝しんだその時、玄関の戸が勢いよく開いた。

「お嬢!きびだんご買って来ましたぜ!」

見ると熊のような男が入り込んで来る。
犬は慌てて引き取りを願う。と、玄関を出て我が目を疑った。

家の前には荒々しい姿の男たちがずらりと整列していた。
唖然とする犬の後ろから桃太郎が呑気な声を上げて近づいて来た。

「いやあ、すっかり懐かれてしまってな。きびだんご買収係として使ってるがいかんせん数が多い」

半分分けてやろうか、という桃太郎の申し出に犬は激しく首を振った。

「困ったな。どこに預けようか」

「山に返して来い」




その後少しずつ山賊達は更生したとか、人々の噂したところによる。


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