翌朝。
ふらりと登校した桃川の姿は一週間前のだらしないものへと戻っていた。駆け寄った三人組はそれを見て唖然とする。
「桃ちゃん、受験はもういいの?」
「受験?」
桃川は彼らの誤解を聞き、大きな息を一つ吐いた。
「馬鹿か。言っただろう、私はフリーターか工場長になる」
「やっぱり?」
「じゃあ、先週のあれは何だったんだよ」
桃川は犬上の鋭い眼差しから顔を逸らせた。
「それも言っただろう、イメチェンだ」
「…そうか」
犬上はそれ以上何も言及しなかった。
「でもせっかく作って来たから受け取って」
と、おもむろに猿谷が小包を差し出した。
「あっ、私も!」
「…俺もだ」
雉島と犬上もそれに続く。
手に納められた三つの小包を桃川は手当たり次第に広げた。
「なんだこれは」
どれも包まれていたのは数個の小さないびつな球体。
「きびだんご」
小包の中身を見た三人は言いながらお互いの顔を見合わせた。
「まさか渡すタイミングまで被るなんてね」
「発想が安易なんだよ、お前らは」
「あん?お前もそうだろうが」
「言っとくけど、一番最初に思いついたの私だからね!うまくいかなくて一週間もかかっちゃったけど」
「そんな証拠無ぇだろうが!んなこと言ったら俺だって…」
「いいや俺が一番だね!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ三人を笑い声が制した。
「なんだよ」
「こんなマズそうなきびだんご、見たことない」
犬上が当然むっとして言った。
「だったら食わなくていい」
「いや、貰っておこう」
不細工で、心の篭ったプレゼントを桃川は丁寧に包み直して鞄にそっと入れた。
「ただし、腹を下したりしたら損害賠償はきっちりいただくからな」
「下さねーよ!」
多分、と自信なさげにつけ加えた犬上に桃川は歯を見せて笑った。
そして机に手をつき、勇ましい面持ちで言う。
「さあ、今日はいい天気だ。今から久々にゲーセンでも行かないか?」
「行く行く!」
「カラオケもしようぜ!」
──やっぱり私にはこの方が合ってる。
廊下で擦れ違った次の授業の担当教諭の注意を無視して桃川達は学校を飛び出した。
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