音と曲と雑音と


音楽プレイヤーが好きだ。
音質はこだわらない。ただ音楽が聴ければいい。

イヤホンを耳にしっかり差し込んで少し音量を上げるだけで私の世界が出来上がる。周りの音なんかほとんど聞こえない。誰が何を言っているかなんて気にしなくていい。私の世界はごく狭い視界と好みの曲によって構成される。

ベッドの上に脱力し、目を閉じて聞くのが一番好きだ。
何も考えず、心を無にする。曲は音になる。意識と音が溶け込み、私が私でないような、世界が世界でないような、そんな気持ちがする──この気持ちも気持ちと言えるようなものなのか分からないけど──

ふと目を覚ました時、そこには見慣れた天井があって、耳に流れているものは誰かの創った曲であって、私は私だ。

曲を停止させて身体を起こす時の、気のせいかと思うほどの虚しさとだるさも嫌いではなかった。

私は、音になりたい、と思った。
誰かに聴かれ、評価される曲ではなく、ほんの日常のささいな、例えば人込みの中の雑音。道路を走る車のエンジン音。遠く響く工事現場の鉄パイプの音。
意識しなければ気にもしない、ただ少し五月蝿いぐらいがいい。

私は確かにここにいる。だけど誰も気づかない。それでいい。
もし誰かが気づいて耳を塞いだとしても、怒鳴りつけたとしても、なにもかも掻き消してそこにいたい。
そして誰にも気づかれないままに私は世界に溶ける。


窓の外で、嘲笑うようにカラスが一声鳴いた。


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