大学生になったら


大学生になったら、私も「普通の人」になれると思っていた。誰とでも笑い合い、愛し愛される。そんな甘い夢を見ていた。

それはあながち間違いではなかった。誰も自分を知らない、初めてだらけの世界に放たれた私たちは必死に互いの手を掴もうとしていた。誰かの傍にいて顔を合わせて適当に相槌を打っていれば「友達」になった。

しかし私には大学生活は眩し過ぎた。必死に繕った外面は綻びだらけで、空いた穴を埋めることにもだんだん疲れた。
雑談していた仲が挨拶を交わすだけの仲に、挨拶を交わすだけの仲が知らんふりをする仲に。時間が経つごとに交友関係は一つまた一つと薄れて行った。
彼女達は本当の友達を見つけたのだ、と私は講義室の端の席に腰を落として思う。当然のことだ。しかし柔らかい笑顔を浮かべて私の名を呼ぶ人が隣にまだいるのは何故だろうか。
彼女は私が大学に入って初めて喋った人物であった。

私は彼女が好きだが同時に申し訳なく思う。私のような面白くもない奴に構っていたら損しかしない。妙な義理は捨てて早く他の所へ行ってくれと思っていても、彼女はいつでも私の傍らで笑ってくれる。
私は交友関係はかなり狭いが、その代わりに依存的な傾向がある。彼女を縛り付けたくはないが、自ら振り払うこともできない。
傷付けたくないから、捨てられたくないから、私は少しの残った力で自分を偽って、希少な「友達」の優しさに根を張っている。


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