とある信用金庫の説明会に訪れた帰り道だった。
就活生の波に揉まれながら道を歩いていると、突如後ろから現れた影に顔を覗きこまれた。
「あ、やっぱり伊藤ちゃんだぁ」
影は私の正面に回り込むと、にっこりと笑ってみせた。
「久しぶり!私のこと覚えてる?」
ああ。と私は息を吐いた。忘れはしない。中一の時のクラスメートだ。
「さっきの説明会、私二列ぐらい後ろにいたんだよ。伊藤ちゃんに似てるなーって思ってずっと見てたんだけど、気づかなかった?」
ぜんぜん。ごめん、気付かなかった、と私は答えた。
本当は気づいていないわけではなかったが、他人と接することが苦手な私は無意識に気付かないフリをしていた。悪い癖だ。
「伊藤ちゃんも金融狙ってるの?」
「金融というか、事務がいいなって…」
「あぁ、やっぱり事務は人気だよねー。ま、私もそうだけど」
なんて世間話をしながら電車に乗り込んだ。乗客の多い車内は息苦しい。
「やー、でもほんと、こんな所で伊藤ちゃんと会えると思ってなかった」
まるで友達に会ったかのように話す彼女に私は少し嫌悪感を抱いていた。
確かに入学してすぐの頃はよく話をしていたが、間もなく例の地獄の日々が始まると、他の生徒に違わず彼女も見て見ぬふりをした。
首謀者たちと同罪、とまでは言わないが、多少時間を置いたからといって許されることではない。
心身ともに押し潰されそうになった私は、立ち寄る所があるから、と言って途中の繁華街で下車した。
「また面接会場で会えるといいねえ」なんて最後まで世間話を続ける彼女に頷くこともできずに、私は去り行く電車を見送った。
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