いつもと変わらない海を、私はずっと見つめていました。
人の世は戦国の世になったと聞きます。乱世を嘲笑うかのように鬼の数はみるみる減り、とうとうこの鬼ヶ島に鬼は私一人になってしまいました。
私が一人消えずにいるのは、やはり私が半端者だからなのか──
そんなことを考えながら、独りの寂しさを海を見つめることでしか慰めることができませんでした。
そうして何十年経ったことでしょうか。近年ようよう鬼が現れ始めました。
独りから解放された喜び、人の世が安泰の世になり始めた安堵、そして“あの人”に会えるかもしれない嬉しさが私を満たしました。
“彼女”の寿命がとっくに過ぎていることは分かっています。もし現れたとしてもそれは“彼女”ではないということも。
けれどこの幾年、片時も彼女のことを忘れたことはありませんでした。
退治するものとされるもの。本来出会うべきではないものなのに。
彼女に会いたい、彼女の魂に会いたい、会えるならあの人に斬られてもいい──
鬼にあるまじきその思考。私は半端者というより、異常者なのかもしれません。
波の音の合間に彼女の声が聞こえる気がして岸辺を歩く女々しさに、我ながら溜息が出ます。
しかしその時、遠くの方から鬼の咆哮が響き渡りました。
何かあったのかとそちらに足を向けた時、すぐそこの大きな岩の上に小さな人影が立っているのに気がつきました。
「…まだいたのか」
静かに呟くと、人影は身軽に岩から飛び降りました。
ふわりと舞い上がった着物からは、微かに桃の香りが漂いました。
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