ガラガラガラ。
粗い、乾いた道に、古ぼけた二輪車の車輪が転がる音が響く。
ギシギシギシ。
少し大きな石を踏んでは大袈裟に跳ね、木が擦れ合う。
「もうちょっとどうにかならんのか」
そう言ったのは荷台の上、五つ程積み上がった麻袋に腰掛け、串に刺さった三色団子を呑気に食う桃色の女。
「お前が、降りて、くれれば、少しは、マシに、なるんだが、な…」
俺は息を切らしながら答えた。額から鼻の脇へ汗が流れた。
くそったれ、何で俺がこんなことしなきゃならねーんだ?
ことは半刻ほど前。
桃太郎と名乗るこの生意気な女に無理矢理仲間(下僕なんて認めねぇ)にされて仕方なくついてってやってたら道端で丁稚がうずくまっていた。
事情を聞いたら今日中に奉公先に荷物を届けなきゃならないのに足をくじいて動けないだのとメソメソ泣き出すもんで。
俺にも良心ってもんがある。代わりに荷物を届けてやる約束をしたのだが、この性悪女、「知ったこっちゃない」だの「旅の邪魔になる」だの後ろでうじうじ反対ばかりしやがって。
かと思えば奉公先が老舗の菓子屋と知るや否や荷台に飛び乗って「さあ行こう」だ。わけ分かんねぇ。
それはそうとして俺が今不満に思っているのは何でこいつが荷台に乗ってんのかってことだ。
いや、聞いた所で意味不明な理屈こねて来るだろうからやめておこう。これ以上体力を使いたくもねぇ。
と、ひたすら一歩一歩足を進めることに集中していたら突然頭に激痛が走った。
「いてっ…!?」
振り返ると、女が鞘ごと抜いた太刀を振り回していた。太刀はひゅうひゅうと空を切る。
「てめっ、何しやがんだ!」
「犬も歩けば棒に当たるというだろう?」
くるくると手先で器用にそれを回し尻の横に収めると、食い終わった団子の串をくわえたまま女はにいっと意地悪く笑った。
「走れ。走ったら棒に当たらんかもしらんぞ」
──この女(アマ)!!
女が再び太刀を取ろうとしたので、俺は歯を食いしばって全身の残った力を振り絞り駆け出した。この勢いで奴がぶっ飛んでくれることを願って。
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