「おい、そこの猿。私の下僕にならないか?」
真っ正面から綺麗な桃色のネーチャンが来たと思ったらいきなりこれ。
しかし下僕といったら常に付き添う者すなわちもしかしたら二人の間に何かあっちゃったりするかも。この目の前にあるはちきれそうな乳の谷間みたいな深い愛を育む事になっちゃうかも。なんて。
そりゃもう喜んでお受けする所でございますよ、隣に犬がいなければ。
ちょ、めっちゃ睨んで来るんですけど。こっち見んなボケ…おっと顔に表れてしまったか、いっけねー俺、正直者だから。
「嫌か?」
「こいつがなー」
「奇遇だな、俺もだ。桃、他の奴探そうぜ」
ほう、桃ちゃんか。名は体を表すというがよく似合う。犬を連れて次は猿、すなわち俺を狙うなんて桃太郎ごっこか?
尻尾を巻いて逃げようとする犬野郎に対し、桃ちゃんは腕を組んだまま俺を見据え、不敵に笑った。
「面白いじゃないか」
「何が」
「仲の悪い下僕供…想像してみろ、なんとゆか」
「ああ、ちょっと黙れ」
根っからの女王気質か。それもまたいいだろう。
犬の吠えるのも全く気にせず桃ちゃんは柏手を打った。
「勝負して決めよう!」
「またかよ。元気だなお前も」
犬コロがわざとらしくついたため息に飛ばされるように桃ちゃんの首がころり。傾いた。
「何を言う。お前ら同士で、だぞ」
「は?何勝手に…!」
「だって、お前らの問題じゃないか」
…よく分からんけど俺はこの犬コロと勝負して勝てばいいのか?
同じように首を傾けてみると桃ちゃんが犬を指さしこう言った。
「さ、いいか猿よ。こいつに勝ったら自由行動、負けたら下僕だ」
「ふーん。そいつをクビにするって選択肢はナシ?」
「あんだとォ!?」
俺の提案に桃ちゃんはけろりと答えた。
「んー、新しい犬探すの面倒臭いからそれは嫌だ」
「そっかァ」
思いやりのない理由に犬はどこか複雑そうな表情を浮かべていた。ざまあみろ。こいつをクビにできないのは少し残念だが、これに免じてやるか。
──長期戦の上に勝負は一向に着かなかった。しぶとい犬コロだ。
お互い同じぐらいダメージと疲労を蓄積し…いや、あいつの方がダメージ受けてたかな。俺あと一歩で勝ってたね。マジで。
最後の力を振り絞ってトドメをさしに行った所で桃色の影が立ちはだかり、俺の脳天にチョップが入った。
「もういい飽きた。下僕決定で」
「あ…うん…そうね……」
力が抜け倒れ込むさなか、ひらりと避けられ俺の顔面は柔らかい谷間ではなくクソ固い地面にめり込んだ。
こうして俺は下僕という名のお供になり、桃ちゃんがガチ桃太郎という事も知った。桃太郎って女もいるんだな。
それにしても。
「きびだんごじゃないのか…」
「え」
何気ない呟きに二人ともフリーズ。え、何、禁句だった?
桃ちゃんは上目使いに俺を見上げ、おずおずと聞いた。
「きびだんご、欲しかったか…?」
「やっぱあんの?」
「やらんからなっ」
拗ねたように早足で先を行く。何ていうか、きびだんごは別にいらんから桃ちゃんをだな…。
後ろから抱きしめたい衝動を抑えながら俺は歩いたのであった。
[*前] | [次#]