「…とまあ、他にも色々回ったのですが、どれも趣味というか遊びの延長線って感じなんですよね」
「お前は何を求めてるの?」
食卓を囲んでぼやく煉に、純がすかさずツッコミを入れる。
煉はその後も優を連れて練り歩いては気にくわない部活に皮肉めいた爪痕を残していたのであった。
「部活なんてだいたいそんなもんだよ。運動部ならまだしも、文化部だろ?」
「納得できません…」
煉は沢庵を口に放り込んで不満を咀嚼した。
それを聞いて不満に思ったのは優である。
「私の部活決めなのに…」
煉はしっかりと口の中を空にしてから言う。
「お前だからだ。他の人になら、こんなにつべこべ言わない」
「どういうこと? あっ」
煉の方を睨みながらも食べる手は休めない。狙っていた最後のミートボールを純に先取りされて声を漏らした。純はこれみよがしにミートボールをひとのみにし、龍一にひっぱたかれた。
「部活のレベルがどうだって、自分が一生懸命やれれば問題ないんだよ、嵐くんみたいに」
いきなり名を呼ばれて嵐は肩を震わせた。
「嵐くんって何部なの?」
野菜炒めを自分の皿に取り分けながら詩織が聞く。嵐は照れ臭そうに「美術部」と答えた。
「そうなんだ!じゃあ、絵、上手いんだね」
「ううん、そんなたいしたことは…」
「何をおっしゃっているんですか!俺は素晴らしいと思いますよ」
謙遜する嵐を、煉がやや腰を浮かせながら咎めた。
嵐は困ったような照れ笑いを浮かべて小さくお礼を言った。
「一生懸命といえば、私も今日剣道部見て来たんだけど…凄いね、胡鏡くん」
「ああ、うん。あいつ剣道のことになるとあれだから」
──ほんの好奇心から詩織は剣道場を覗いて驚いた。
いつも純の隣にいる無口な男子生徒が、そこでは鬼のような形相をして大声を張り上げ部員達を奮い立たせていたからだ。
「一年ビビるからやめとけって言ったんだけど、『こんなぐらいで立ち止まる奴はいらない』とか言ってたな。怖えよなー」
怖いと言いながらも純は楽しそうだ。
「そんなことより、詩織さんも見学行かれたんですね」
何故か少し不服そうな顔をして、煉が口を挟んだ。
「うん。今年転校したし。今までテニスとバドミントンやってたからざっと体育会系見てたんだけど、やっぱ無理だよね」
実力勝負といえど、ことさら上下関係の厳しい体育部では途中入部禁止が暗黙の了解とされている。
「だから、せっかくの機会だしこっちではゆったりした文化部に入ってみようかなーとか思ってる」
煉は成る程、と頷く。
「目星はもうついているんですか?」
「そうねえ。料理部とか、どうかな?」
それを聞いて男達の顔が強張った。
「し、詩織ちゃんが料理部かあ〜」
上擦った声で龍一が言う。向かいの純は箸をくわえたまま真っ青になっている。
詩織は、料理ができない。詩織だけではなく、優もだ。「できない」の前に「壊滅的に」がつくほど料理ができない。
皇家の食事は当番制だ。できないと拒む二人を半ば無理矢理にローテーションに組み込んだはいいが、作ったものは想像を絶する出来栄えだった。
煮ればマグマの如く湯を煮えたぎらせ、焼けば消し炭か生焼け。味つけも極端に薄いか濃いか混沌としているか。
まずいだけならまだ可愛いものだが健康に被害を及ばしかねない。放っておくのも危険なので純が詩織を、煉が優を指導しているが今だに上達しないでいる。
「向上心は素晴らしいと思いますが、これ以上被害を増やすわけには…」
「被害って、あんたらねえ…」
『優以外にとやかく言うつもりはなかった』はずの煉にまで言われて詩織は洋画のワンシーンのように肩をすくめてみせた。
「それとも、私も純みたいにバイトしようかな」
純は部活に所属しない代わりにバイトをしている。彼の場合、食費が嵩むので小遣いを与えられていないらしい。
詩織がバイトと言うと純、煉、龍一が言い合わせたように首を横に振った。
「いや、詩織はしなくていい」
「そうですよ、青春を無駄にしてはいけません」
「バイトはいつでもできるけど、高校時代は今しか無いんだぞ」
口々にそんなことを言うので、詩織はバイトも諦めざるをえなかった。
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