2024/04/03(水) 21:18 #感想文

表紙も河鍋暁斎の『鬼の寒念仏』なので桃太郎モノに違いない!と思ったのですが、別にそんなことはなかったんだぜ。いやそんなことはなかったこともなかったんですけど。
ちなみに読み終わった後で調べたら鬼の寒念仏って外側だけ慈悲深い僧侶の格好をしているけど中身は鬼、ということで偽善者を表すモチーフだそうです。ふ、不穏〜!
うちの鬼も作務衣もどきみたいなの着てるから鬼の寒念仏と見えなくもない…!?いや外見もほぼ人間だしセーフ。袈裟じゃないし。作務衣なのか甚平なのかよく分からんし。それは置いといてですね。

作者が福島県の僧侶だそうで、仏教の教えと絡めながら、東日本大震災、原発、コロナ等の時事問題を題材にした短編集でした。
除染作業とか仮設住宅とかなんだか生々しくて現地の声を聞いたような気持ちになりました。震災から数年経っても放射線除染として木々を切っていることとかそれの廃棄問題とか全然知らなかったな…。と反省しました。

3作目からコロナ禍に入ってマスクの描写が丁寧に書かれているのが斬新でした。私たちはコロナ禍を経験してるので、マスクの付け外しや息をした時の膨らみや息苦しさ等、その様子がありありと目に浮かびますが、例えば数十年後コロナ禍を知らない世代がこれを読んだらすごく奇妙な光景なんでしょうね。その時も風邪予防や花粉症などで一時的にマスク付けてる人はいるでしょうが、こんな日常的にみんながマスク付けてることはまたとんでもない感染症が流行らない限りないんでしょうね。「2020年代コロナが流行…」とかって今で言う昭和平成懐かし特集的にマスクした人々の様子なんかがテレビで流れてへぇ〜そんなことあったんだねって思われるような健やかな時代になればいいですね。

ここまでは仏教と時事が淡々と描かれてる感じがして正直ちょっと難しいな…と思いながら読んでたんですが、4作目「うんたらかんまん」はだんだん登場人物2人がギスギスして来るのではらはらしました。
人間の嫌な部分が率直に書かれててちょっと後味悪いんですけど、じわじわと真相が明らかになる展開にミステリを読んでいるような気持ちにもなってたまらず2回読みました。

5作目「繭の家」は近未来の話なんですけどこれ面白かったですね…。世にも奇妙な物語みたいでした。
コロナ禍以降、接触を恐れ続けた人類が個々に与えられた「繭の家」で1人引きこもって暮らすというお話。幼児期から既に親とさえ離されるんですけど繭の家…スーパーすごい家なんですよ…。日々の健康診断から空調設備から何から何まで全部AI管理で快適、さらに洪水が来て流されても超防水なので家ごと浮いて助かるという…ちょっと住みたいな…。
連絡や物流はほぼリモートです。接触することへの忌避感とか感染症への異常な恐怖感とか…コロナ流行り始めた頃の世間の混乱を揶揄しているよう。人と関わらずに清潔過ぎる生活をした結果免疫なくなってるとかね。あぁ〜…って感じですよね。
そんな人が触れ合えない世界で人類の存続どうやるのかというと、AIが相手を選んで子づくりさせるという…。主人公にも時が来、いよいよ相手と初めて会う…!というストーリーなんですけどなかなかディストピアですよね。作中ではそれさえも物議を醸して人工授精が流行り始めてるみたいですが。
東京が一周回って国家反逆無法地帯になってるのちょっと面白かった。

6作目「桃太郎のユーウツ」。最後に本命、表題作。
除染作業員として働く佐藤桃太郎。なるほど桃太郎オマージュものか…と思ってたらガチ桃太郎だった。桃太郎は桃太郎として転生し続けていた。お分かりいただけただろうか。この設定でもうヒュウー↑↑ですよ…。
本人に桃太郎としての記憶はないけれど、歴代桃太郎の記録等を編纂した『桃太郎の秘密』が送られてその生を知るという。桃太郎の元には自然と犬・雉・猿に当たる人物が周りに集まって来るというのも面白い。たぶんお供たちも生まれ変わりなんでしょうね。なお現代のきびだんごは現金です(笑)。猿に当たる人物が関西弁だったのもにやけポイントでした。猿=高猿寺なので…。自創作語りすみません。
桃太郎なのでやはり「鬼退治」をするんですけど現代版鬼退治世知辛過ぎる…。そうと決まった時の切り替えの早さというか「ではやるか」みたいなテンションええ…?ってなりました。人外感というか桃太郎の性質なんでしょうね。
ちょっと桃太郎王国と似たところあったので妙な感情移入みたいなものをしてしまいましたが面白かったです。たまたま目に入った、これもまた縁なのだ。
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