2024/03/19(火) 22:16 #夢日記

A子は公衆トイレに入って行った友人を、海を眺めて待っていた。
海沿いの遊歩道が陽の光を浴びて白く輝き、深い青との美しいコントラストを作り上げていた。

「潜水、開始ーっ!!」

たくましい女性の声が響いて顔を上げる。中型船が、ずぶずぶと青い海に沈んで行くのが見える。
そちらに近づいてみると、せり出した防波堤で、船員制服を着た女性が腕組みをして沈む船を睨んでいた。
よく見ると船ではなく潜水艦らしい。
この潜水艦を運転しているクルーはまだまだ新人で鈍臭く、どうにも頼りがないということを女性は呆れた口ぶりで言った。

「…よし。魚雷、発射ー!!」

やがて潜水艦の影が見えなくなると、女性は再び鋭い声で叫んだ。
が、ごうごうと音を立てながら潜水艦は浮上した。船体の前半分が海上に露出する。
そして──潜水艦は魚雷を発射した。

魚雷は真っ直ぐに空を突き刺し、公衆トイレの前にある電波塔に直撃した。
刹那、炎のうねりが花のように開いた。友人の元に駆け寄る間もなく、視界が赤に染められて行く。爆風に突き飛ばされて、A子は意識を失った……。



『──この事故で、公衆トイレに入っていた4人の女性が死亡』

沈痛な面持ちで女性アナウンサーがカメラに向かってリポートする。

『そしてこちらは当時トイレに入っていたというご友人を800年間探しているA子さんです』

カメラが右にずらされた。あれから800年も経っているのに、若いままの姿のA子が映された。爆破の衝撃で不老不死になったのだ。

800年の歳月で遊歩道は砂浜になっていた。カメラに向かって曖昧に笑顔を見せたA子だったが、ガタイの良い強面の男たちに突如両脇から掴みかかられ、砂浜に引きずり回される。

「化け物がよォ、これでも食らえよ。死なねェんだろ?」

男たちは笑いながらA子に毒蛸を突き出した。蛸の黄色と紫の吸盤からカラフルな毒液がインクのように吹き出す。
A子は逃げ惑い、転びながら海へと走った。助けて、と叫んだ時、海がごうとうなりを上げて毒蛸の大群が現われ男たちを襲った。地球温暖化の影響で海中は毒蛸で溢れていた。

毒液にまみれ、逃げ惑う男たちをA子は波打ち際でぽかんと見ていた。ふと振り返ると、海上に浮かんだ数十匹の蛸が整列して『がんばれ』の字を作っている。A子は吹き出し、そのまま海の中へ倒れこんだ。わっと歓声が上がって、砂浜にいた子ども達がA子に駆け寄った。
ざぶざぶと波を蹴り、海の中へ。A子は微笑ましくそれを見ていたが、はっとなって子ども達の前へ立ちふさがった。海の中ではみっしりと密集した毒蛸が目を光らせていた。
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