※帝光時代捏造



「真太郎、三十分になったら起こして」

そう言ったきり、赤司はぴたりと瞼を閉じて動かなくなった。二人きりの図書館に、時計の動く音と、赤司の静かな寝息だけが響く。

テスト前で部活もなく、図書館で勉強をしていたところに赤司がやってきて冒頭に至る。赤司は椅子の背もたれに体重を預け、軽くうなだれるようにして眠っていた。
力の入らない顔立ちは年相応に幼く、普段からは想像できないほど穏やかだ。

(赤司が人前で寝るとは、珍しいな)

ゆったりと上下する薄い胸板を眺めながら、ぼんやりと思う。

赤司征十郎という男は、どこからどうみても隙がなく、普段は喰えない人間なのだ。それが、今はこれだ。珍しい。


夕日を反射する睫毛に触れようとして、やめた。ここで赤司が起きてしまえば、この奇妙で穏やかな時間は終わってしまう。それはなんだか嫌だ。もう少しだけ、赤司を独り占めしていたい。

(…何を考えているのだ、俺は!)

自分の思考に嫌気がさす。沸いてるのか、俺は。
ぐるぐると暴走する思考の外で、無意味なチャイムが鳴り響いた。あ、と思う間もなく赤司が目を開ける。

「…今何時だ」
「午後四時十五分なのだよ」

まだ時間まであるから、もう少し寝ていたらどうだ、

無駄だとは思ったが、またあの穏やかな顔が見たくて声を掛けた。
が、赤司は無言で椅子から立ち上がる。まあそうだろうな、と思っていたところに、軽い衝撃。

見れば赤司が隣に移動し、俺の右腕に頭を預けていた。

「三十分になったら起こしてくれ」

最初と同じ台詞を吐き、赤司はまた静かに寝息をたてはじめた。ばくばくと心臓がうるさい。

俺は微動だにできないまま、ただただ時計が止まるのを願っていた。


/二人きりのサンクチュアリ