※年齢操作
※高3


「あー志願理由、なーんも浮かばねえ」
「うだうだ言ったって仕方ないのだよ」

夏休みの教室には俺と緑間だけで、しょーもない呟きがやたらに響く。開け放たれた窓から蝉の声と、ボールの弾む音が聞こえた。あー、バスケしてえなあ。

空調の入らない教室は蒸し暑い。射し込む日光が肌をじりじり焼いた。

俺と向かい合わせに座る緑間は、もう志願理由書とかその他諸々を書き終えているらしく、書類の点検をしていた。流石エース様は違う。

「ねー真ちゃん」
「なんだ」

律儀に返事をしてくれた緑間のふいを突いて、触れるだけのキスをした。間近で見えた翡翠色の瞳が、光を浴びてきらきらと輝いている。宝石みたいだ。

「…ふざけていないで、はやくそれを書いてしまうのだよ」
「へいへーい」

少しだけ顔を赤くした緑間を見てにやついていたら、いい加減にしろ、と頭を小突かれた。それでも目の前の紙は白いままだ。


窓から覗いた空は今日も青い。俺とおんなじように空を見上げる緑間の横顔も、相変わらず綺麗だ。

「…このまま、時間が止まっちゃえばいいのにね」

返事はない。
かわりに、出会った頃から変わらないまっすぐな瞳が、確かに終わりを見据えていた。


(あぁ、俺は、この目がずっと好きだった)


手を繋いだりキスしたり、なんとなく付き合っているような関係を、俺たちはずっと続けてきた。
でもお互いきちんと「好き」とは言わなかった。言えなかった。

この関係が永遠じゃないことを、自分たちが一番よく知っていたのだ。


タイムリミットは卒業まで。
三年目の夏が、もうじき終わる。



/さよならの速度を知っていた