「真ちゃん、どうしよう俺、」
真ちゃんのこと、すきになっちゃったかもしんない
押し倒されて馬乗りされても、押し倒す力がこの上弱々しく、しかも泣きそうな顔をされたら、跳ね返してまで抵抗しようという気はなかなか起きない。俺は押し倒されたまま高尾の顔を凝視し、高尾は俯いたまま黙っていた。
「…それで、お前は、俺にどうしろというのだよ」
高尾の肩がびくりと揺れる。その顔は普段の飄々とした態度からは想像できないほど憔悴していた。
気まずい沈黙が続く。やがて体の上から重力が消え、かわりに擦れそうな声が聞こえた。
「…ごめん、」
自由になった体を起こし、高尾と対面になるように座る。俯いた高尾の表情は前髪に隠れて見えない。ただ、その肩は小さく震えていた。その姿をみて小さく溜息をつく。高尾の肩がまたびくりと震えた。
「ごめ、きもち、わりいよ、な」 忘れてくれ、
「待て」
立ち上がろうとした高尾の腕を掴む。ガクン、と一瞬立ち止まったが、すぐに反抗された。
「、緑間、はなし、」
「…いきなりそんなことを言われて、忘れられる訳がないのだよ」
「っ…ごめ、」
「いいから座れ」
言えば、高尾はその場にぺたりと座り込んだ。こちらを向け、と言っても一向に俯いたままなので、仕方なしに対面へと回り込む。覗き込んだ顔は、今にも泣きだしそうだった。
「…緑間、悪かったって。だからもう、」
「誰も、嫌だとは言ってないのだよ」
「…は?」
高尾の顔がばっ、と上がり、視線がかち合う。すぐ気まずそうに逸らされたが、構わず続けた。
「俺も、お前のことが好きだ」
え、と呟く高尾の不意を突いて、口を寄せた。かしゃん、と眼鏡のずれる音。馴れないことはするものじゃない。
唇を離して目を開けると、きょとんとした顔の高尾がそこにいた。が、その表情はすぐにくしゃりと崩れる。
「ふ、は、真ちゃんってば、顔真っ赤」
あはは、と高尾が笑う。お前だって真っ赤なのだよ、といいつつ、更に顔が熱くなるのを感じた。
「…はは、どーしよ、いま俺」 めっちゃしあわせ
笑ったまま、ぼろりと高尾が泣いた。それは次々と溢れだして床を濡らしていく。それを指先で拭ってやったら、真ちゃんってばキザね、とまた笑われた。
「とりあえずなんつーか、まあ、これからよろしくお願いします?」
ふにゃり、と笑いながら高尾が言う。いや、とそれをひとつ訂正した。
「これからも、だろう」
それもそーね、と高尾が笑う。そのとき俺は、この握った手を離したくないと、陳腐なことを考えていた。
/陳腐な永遠を約束しよう
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