※中学生の頃
水戸部の長い手が伸びて、ボールを奪う。そのまま敵を躱してシュートを打つ。
その姿に俺は、心も目も、奪われてしまったのです。
「…すっ…げー!水戸部すっげー!お前ほんとバスケうまいんだな!」
試合後水戸部に駆け寄り、思っていたことをそのまま口にした。水戸部は照れ臭そうに笑う。
「そんな謙遜すんなよ、ホントにすごかったって!」
細かい技名も、どういう技術なのかも、俺には全くわからない。俺が知ってることなんてせいぜい中学校の授業レベルなのだ。(それも大概まともに聞いちゃいないから、ほとんど知らないわけだけど)
「ねえ水戸部がさっきやったやつ、なんてーの?」 ほら、さっきの、あのシュート! すげえなあ、あれ、体半分しかゴールに向いてなかったのに入るなんて!
興奮がなかなか冷めなくて、思わず手足をじたばたと動かした。そんな俺を見て、水戸部が苦笑する。
「フックシュート?」
聞き返すと、水戸部はこくりと頷いた。聞いたことない名前だ。俺が知ってるのは、ダンクと、スリーポイントと、それから、レイアップ、ぐらいのもんだ。やっぱ水戸部はすごい。
「水戸部水戸部!もっかい、もっかいやってみて!」
気が付けば授業も終わっていて、体育館にはもう俺たちしかいなかった。一度しまったボールを倉庫からひっぱり出してきて、水戸部に渡す。
「はい、水戸部!」
しばらく水戸部はボールと俺を繰り返し見ておろおろしていたけど、観念したのかボールを受け取ってくれた。
ゴールからやや離れた場所に水戸部が立つ。弾むボールの音、床の軋む音。これらが二人きりの体育館に反響する。ジャンプして、伸ばした水戸部の手からボールが離れ、ゴールに吸い込まれていく。ガコン、と音をたて、シュートが決まった。
「水戸部、すごい!もっと見せてよ!」
子どものようにせがめば、水戸部は困ったような顔をしながら、それでもいろいろなシュートを見せてくれた。技名とかそんなの、俺にはわかんなかったけど。バスケをしてる水戸部は、とにかくきらきらしてた。
「ねえ水戸部、」
ふう、と息をついた水戸部に駆け寄る。どうした?と言いたげな顔にぐっと近付いた。
「俺にバスケ、教えてよ!」
水戸部は一瞬きょとんとして、それから嬉しそうにはにかんだ。俺もつられて笑いだす。
水戸部の見ている世界を、俺に教えて。
/きみの世界に触れたい
タイトルバイhmr
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