「青峰っちが幸せなら、俺は大丈夫だから」
俺のことは忘れて、幸せになってね

いいながら、声が震えるのがわかった。じんわりと目頭に熱が溜まる。ぎゅ、と眉根に力を込めて、なんとか涙をせき止めた。
さようなら。出来るだけ丁寧に、決して言い間違えることのないように、たった五文字を紡ぐ。さようなら、さようなら。

暑い暑い夏の日のことだった。頭上でじぃわじぃわと蝉がうるさい。俺の声、届いたかな。届かなきゃいいのにな、なんて。今更ちょっと未練がましいこと思ったりして。
茹だった地面は陽炎で揺らいで覚束ない。青峰っちの姿もゆらゆら、ゆらゆら。
さようなら。も一度呟けば、青峰っちの姿が歪んで、溶けて、涙に滲んでいく。これでよかった。これでよかったんだ。言い聞かせども涙は止まらず。段々自分の姿も滲んできたので、そっと目を閉じた。


***


ぱちり、と目を覚ましたら、見慣れた天井が真っ先に目に入った。夢だったのか。頬に伝った涙をやや乱暴に拭き取る。隣にはすうすうと寝息をたてる青峰っちがいた。

あの夢は、いつか現実にしなくてはいけない。俺たちは男同士で、多分どこにいっても、どこまでいっても、幸せにはなれない。幸せに、出来ない。

(わかってる、わかってるけど)

眠っている青峰っちの背中に触れる。手のひらから伝わる温度はあたたかくて、また泣きそうになった。

(でも、まだ、もう少しだけ、)

わがままな俺は、未ださよならを言えずにいる。



/貴方にさよならを言うためだけに生きている

タイトルバイ告別