※帝光時代



「真太郎は秀徳高校だったか」
「あぁ」
「次に会うときは敵同士だな」
「…あぁ」

「それじゃあ、さようなら」


よく晴れた日のことだった。三月、例年よりも暖かい春が来た年に、俺たちは卒業した。春風に吹かれて揺れる桜の花が、その暖かさを誇示している。

赤司は振り向かなかった。俺もその背中を追わなかった。追えるような立ち位置に、俺はきっと居なかった。


俺と赤司の関係は、酷く拙く、幼い関係だったと思う。

全中が終わると同時に、俺たちの夏も終わる。蝉も鳴かなくなって、青かった空が赤くなればもう秋だ。
吹く風が冷たくなると、赤司は俺の隣に居るようになった。寒いから、と月並みな理由と一緒に。
俺もそうか、とだけ言って、黙って赤司の隣に居た。

お互いに、理由がなければ一緒に居れないような、そんな拙い関係だったのだ。

秋が終わり、冬が来て、そのうち春になり暖かくなると、自然と距離を置くようになる。そうして夏を越え秋になると、また赤司は俺の隣にやってきた。

「寒いのは嫌いなんだ」
だからあたためてね、

いつだったか、そう言ってするりと俺の指に自分の指を絡めて笑った赤司の顔が、今も鮮明に脳裏に焼き付いている。


そんなことを繰り返し、三年目の春が来た。
今年の春は例年よりも暖かくて、

俺はついに、赤司の隣に居る理由を失った。



/春に死に逝く