「…む」
「はは、失敗だね」

ばしゃりとポイの紙を破って、金魚が水面に落ちた。跳ねた水が顔に掛かる。不快だ。

「こんなの掬えっこないのだよ」

破れたポイをくるくると回す。こんな薄い紙一枚で金魚を掬おうというのが、そもそも無謀だったのだ。

そんな無謀極まりないことを、何故俺が自分の小遣いを削ってまでやったのかといえば、横で笑っている赤司にせがまれたからなのだが。そもそも、赤司なら自分で取れたのではないか。俺の三百円は、満足気な屋台主の懐に吸い込まれて消えた。

「やっぱり、真太郎には掬えなかったね」

ぱしゃり、赤司が指先を水槽へ突っ込む。水面が揺れて、金魚が一斉に逃げだした。逃げる場所などどこにもないのに。

「すくえない」

赤司の横顔からは何も見えない。赤司の髪と、金魚の赤色が、重なって揺れる。

赤司、お前、何を考えている?

(すくえないといったのは、金魚か、それとも、)


「…すみません、もう一度」

屋台主にまた三百円を渡す。がんばるねえ、の一言とともに、新しいポイを受け取った。

「…真太郎?」

「すくってみせるのだよ、必ず」


一匹に狙いを定めて、ポイを水に入れる。ぱしゃりと水が跳ねた。

「…はは、」
真太郎は優しいね、

眉尻を下げて赤司が笑う。


結局その日、俺は金魚をすくえなかった。


/救い損ねたあの子の話