※事後



床に散った精液を踏んでみた。指の間から溢れだして、にちゃりと嫌な感触。妙な青臭さが鼻を突いた。

「何をしている」
「んー、大量殺人」

にちゃにちゃと俺と緑間、どちらのものかもわからないぐらい交わった精液を足で踏み潰す。体外に出てからしばらく経ったそれはひやりと冷たい。死体みたいね。触ったことないけどさ。

「俺たちってさあ、ほんと非生産的な関係だよね」

指先に絡まっている種子は俺か緑間の子どもになる可能性もあったのに。どちらにもなれないままもう死んでしまった。殺したのは俺だった。

「俺、女だったらよかったのにね」

そしたらこの種も吐き捨てないで柔らかな子宮で抱き止めてきちんと真ちゃんの子ども生んであげられたのにさ。俺のこの体は固いばかりだ。

「高尾」
「なあに」

背後に緑間の気配がしてぎゅ、と抱きしめられた。裸のままで居たからクーラーで体が冷えてたらしい。緑間の体温が背中にじわりと染みる。

あ、やばい
なきそうだ

「高尾」
「、ごめん、真ちゃん」
「高尾」
「ごめんね」

ぼたぼたと生ぬるい涙が頬を伝う。むき出しの腿が濡れて気持ち悪い。

わかってる、わかってんだよ
俺じゃあ、緑間のこと、しあわせにしてあげられないってさあ

でも、

「ごめん真ちゃん、離れたくない」
「…俺もなのだよ」


回された腕に力が入った。応えるようにその腕を握る。あったかい。あったかいね真ちゃん。


(床に散った子どもたちは、とっくに冷えて死んでいた)


/良心の溺死

タイトルバイ告別