#01「幼馴染の恋人」

「おーい、栞」
「・・・・・」
「聞いてんのか・・よっ!と」
「わっ!!!!!何!?」

さっきより少し大きい声で赤也が耳元で呼んだ為、慌てて大きな声をした右を向く。

「お前さ、俺がずっと呼んでたろ」
「あーごめん、ごめん!」
「これ、部長から」

手渡しされたのは電子辞書。
今日必ず持ってこないといけなかったのに寝坊して忘れて、慌てて精市に貸してもらうことにした。クラスメイトの赤也から話を聞くと、体育の授業で少し急いでいた精市は、ばったり廊下で会った赤也に辞書を渡したらしい。

「本当どんくさいよなー、あんなに先生言ってたのに。よくそれで部長と付き合えてるな」
「うるさいなー、ありがとう!」

はいはいといった顔で自分の席に戻る赤也。


同時になるチャイム。


授業が始まり貸してもらった電子辞書を開くと、一枚の紙切れが挟まっていた。



  ー今日、部活休みなんだ。いつものところで待ってる。その時に辞書返してね。ー



そっか!今日からテスト週間で部活休みなんだ!すっかり忘れてた。
小さなガッツポーズを決めて授業を聞く。




精市とは家が向かいで、昔から幼馴染として家族ぐるみで仲良くしていたけど、特別に意識していた訳でもない。だから私が高校1年から2年に上がるタイミングに、昔良く遊んでいた公園のベンチで精市から告白されてビックリした。カッコ良い兄的な存在で、しかもテニスは上手くて高校でも部長を務めるほどでモテるらしい。

返事に迷っていたら「嫌い?」と聞かれて、「嫌いじゃない」と答えたら、急に抱きしめられて幸村の香りに包み込まれた。心臓が強く脈を打ち、陽は暮れはじめ、まだ肌寒い風が吹き始めて呆然とする栞。

「昔から一緒だったけど、これからも栞とずっと一緒に居たいと思ってる」
「・・・・・」
「・・離れたくないんだ」
「・・・うん、私も離れたくない。精市とずっと一緒が良いな・・・」

栞は幸村の背中に腕を回すと、さっきよりもギュッとキツく抱きしめられた。




高校に入ってから毎日一緒に帰れるんじゃないかと浮き足立っていた私は帰宅部。だから毎日一緒に帰れるわけでもなく、テスト前の僅かな休みぐらいしかない。これも毎回あるわけでもなく・・・。

学年も1つ違うし勉強しないといけないといけないけど、嬉しいよね。もう午後の授業だし、あと少し!




「(眠い・・・)」



昼食をとった授業は何でこんなに眠いのか・・・。
おまけに心地よい風と、暖かく柔らかな日差しが差し込む窓側。英語の授業が子守唄にも聞こえる。栞は眠気と格闘するが、気が付かない間に眠りについてしまう。


急に周りが騒がしくなった。
椅子を少し引き摺る音、鞄を閉める音、そして「またねー」と言うクラスメイトの声が遠ざかって行く。


「(また、ね?)」
「おはよう、栞」


少し意識が戻ろうとしている時、聞き覚えある声が聞こえた。

「せ、精市!」
「ホームルームが早く終わったから迎えにきたんだ」

空いた前の席に座り、にっこりと微笑む。まだ教室内にいるクラスメイトや外から「あ、幸村先輩だ」と女子達の声が少し聞こえる。

慌てて教科書を鞄の中に入れ始めると、お馴染みの奴がやってきた。

「部長を困らせるなよー」
「こ、困らせてなんか」
「辞書貸して貰って寝るなんて、ありえないって。授業ちゃんと聞・か・な・い・と!」
「・・・・・・」

確かにわざわざ借りておいて、お昼食べて眠くて寝ちゃったのは悪いよね。だけど、赤也に言われるのは何かムカつく!普段から聞いてないくせに。

「赤也、そんなに栞のこと責める余裕あるぐらいなら、今度英語のテストしようか?ちゃんと授業聞いてるなら満点だよね?」
「ぶ、部長ー!そんな冗談よしてくださいよ!!あ!俺、用事あるんだった!それでは!」

鞄を持ち直して走り去っていった。

「赤也のことだから、普段から授業聞いてないでしょ」

また微笑みながら栞の方を向く。
一瞬ドキッとしてしまう自分がまだ恥ずかしい。

「さ、帰ろっか」
「うん」

手を引かれて教室を出て廊下を歩き正門へ向かう。
こうやって二人で並んで歩くのは本当に久々で、少し景色が違うような気がしていた。


「今日、俺の家寄っていかない?家で勉強しようよ」
「本当?やったー!」

お互いの家は近いから方向はほぼ一緒。見慣れた家に何故か緊張していた。
この数ヶ月の間に幼馴染から恋人同士に変わって、異性としてみるようになっていたせいか。廊下から階段へ、そして久しぶりの幸村の部屋へと足を進める栞。
部屋は幸村の香りがしていて、窓側に少し花が飾ってある。昔からの趣味は変わっていないが、男子高校生の部屋と変わっていた。

適当に座ってお互いテスト勉強で必要な道具を並べて、学年が違う二人は黙々とテスト範囲に沿って勉強を始める。

「そこ、間違ってるよ」
「え?ど・・」

解いていた問題集から幸村へ視線をあげると、唇が重なっていた。

「嘘」
「!!!!!」
「最近してなかったから」

ニッコリと笑う幸村。

「そうだけど、まだ恥ずかしい・・ね」

顔を覆おう栞の手を解き、向かい合うように自分の膝の上る。まだ恥ずかしがるのを嬉しそうに見る幸村の視線に上手く目を合わせることができない。また手を取られさっきとは少し長く、角度を変えながら甘いキスが降り注ぐ。

「・・ん・・・・ぁ・・・」

二人の漏れる息と唾液の音が際立つ部屋に、少し興奮してしまう。


どれくらい時間が経ったのか分からなくて、何も考えられなかった。息をするのも辛くなってきた頃、ようやく解放される。

「・・・はぁ・・」
「少しは慣れてくれた?」

まだ思考が追いつかない栞に比べて、精市はまだ余裕そうな表情を浮かべる。

「本当可愛くて離したくないな」
「恥ずかしいよ」
「栞、どこにも行かないで?」
「・・・もう、分かってるよ。離れないよ、精市のこと好きだもん」

抱きしめ返すと自然と笑みが溢れる。栞は、胸いっぱいに喜びが広がっていく感覚を感じていた。




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