看病人 vol.1

朝、ピピピッと体温計を見ると38.4℃。
完全に風邪をひいてしまったと嘆くのは、社会人3年目の栞。昨夜から体調が優れないのは分かっていたが、昇格するキッカケになる明日の会議を前に欠勤などありえない。
怠い身体を起こそうとすると頭痛が酷くなりフラフラする。とりあえず午前中は無理だと判断し午後出勤に変更するよう上司に連絡を入れて暫くすると電話がかかってきた。

「はい・・・」
「大丈夫かよ、熱は?」

宍戸が心配していた。高校の先輩でもあり会社の先輩である宍戸とは、次のプロジェクトで同じチームに。昔から、とても頼りがいのある存在で少し気になっている。

「熱は?」
「少し」
「お前のことだから嘘だろ」
「・・・38.4℃」

電話の向こうで溜息が聞こえた。「休めよ・・・。朝礼があるから後で連絡する」と言うと、電話は切れた。とりあえずPCと資料を鞄から引きずり出し、明日の会議のことを考えるが、頭が働くわけがない。
とりあえずパンを2口ほど食べ、家にあった風邪薬を口に入れ水で流し込む。フラフラ状態で意識朦朧としながらベッドに戻ると目を瞑るが、頭の中は会議の事でいっぱいなのは仕事人間の証拠でもある。






ーピンポーン


ーピンポーン



誰かが家のインターホンを鳴らす音で意識を戻す。とりあえず携帯をみると、メッセージの通知がいくつか入っていた。

>午後から来るって聞いてたけど、あの熱じゃ無理だろ。
 明日の会議が大事なのは俺も一緒。連日遅くまで準備してたから分かるけどよ
 今日1日休んで明日の事はまた考えろよ。
 一応お前の意思も確認したいから、返事くれよな。

>おーい。もうすぐ午後出勤の時間だけど、大丈夫か?

>寝てんのか?とりあえず、上司には1日休むってこと伝えておくから
 今日のことは気にすんな。あと、お前の机の上にあった資料のコピー拝借するぜ。
 この借りは飲み代でお願いするからな。

>相当体調悪いんじゃねえか?帰りにお前の家寄っていく。


どれも宍戸からの連絡で、時刻をみると18時過ぎ。連日仕事で遅かった事と薬の効果で良く眠っていたことを知り、返事を返そうとする。


ーピンポーン


まだ押されるインターホン。栞はもう宍戸がやって来たのではないかと思い、エントランスを映す画面をつけて反応する。

「はーい・・・え」
「こんばんは、栞ちゃん」

この関西弁と丸メガネ。嘘やろっと自分も何故か関西弁で思い、一旦無視して画面を切る。もう一度インターホンが鳴り付けると、やっぱり画面に映るのは宍戸の同級生である忍足の姿だった。

「開けてや、自分辛いんやろ?」

何故忍足がいるのか考えたいが、身体が怠く考えたくもなかった。解錠ボタンを押し玄関も開けに行く。即ベッドに戻り暫くすると玄関が開き「お邪魔しまーす」と意気揚々した声がして、足音が近づいてくる。

「結構綺麗にしとるんやな」
「失礼な。・・・何で忍足先輩が来てるんですか?」
「聞いてないん?宍戸から連絡があってな」

今日、忍足と宍戸は他の仲間と飲む約束をしていたが、栞の体調が悪いから今日は行けないと宍戸から連絡があったそう。しかし、クライアントとのトラブルで宍戸が行けそうにもない事になり、医者である忍足に状態を見て来て欲しいと頼まれていた。

「自分、今熱は?」
「分かりません」
「なら熱計っとき。その間に食べれるもん作ったるから、キッチン借りるで」

近くに置いておいた体温計を渡され、忍足は買い物袋を持ってキッチンへ向かった。「うわ!パン食べかけやん」と言う声が聞こえるが、そんなこと気にしている状態ではない。頭痛は少し収まっているが、身体は怠く重い。体温を測り終わった合図を耳にして温度をみると、37.6℃と表示されている。


「お待たせ。これやったら食えるやろ」
「あ、ありがとうございます。先輩料理できるんですね」

目の前に出されたのは、うどんだった。ネギと卵が透き通ったスープに浮かんでいて、鰹出汁のいい香りがする。少しずつ口に入れ始める栞。

「・・美味しいです」
「ほんま?そりゃ良かったわ」

忍足が微笑む。

「食後はコレ飲んでな。市販薬ならコレが一番効くで」
「詳しいですね」
「これでも医者やからな」

高校時代、特定の彼女が居たことは聞いたことがなかった。医者だと言われても医者っぽくみえないのは、その見た目と思い出のせいだった。「ご馳走様です」と、うどんを食べ終え渡された薬を飲む。

「そういや、熱どうやった?」
「あ、37.6℃でした」
「ほんまか?」

そういうと忍足は栞の額に、自分の額を合わせた。急に忍足の顔が接近し硬直してしまう。何故忍足がこのようなことをするのか理解できず、これが宍戸だったらと思っている矢先、忍足の右手が栞の頬を触っていることに気がついた。

「今、宍戸のこと考えとったやろ」
「そっそんなことないですよ!!からかうのは・・・やめてください」
「からかってないで。なぁ・・自分、宍戸のことどう想ってるん?」




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