「例えばここに、一本の団子がある」

彼の指に摘まれているのは、3つの餅が刺さったごく普通に売られている団子串だった。何だ何だと思う内に、彼は側にある皿へと団子を外す。三角形に置かれたそれに向けて、三郎はにこやかに指を指した。

「これが雷蔵。これが八。そしてこれが俺」

彼から見て右の順に指を動かしながら喋るのを見る所、どうやらろ組の三人は彼によって団子に例えられたらしい。全くもって意味がわからない。彼のやることは突拍子もないことが多いが、今日のこれもなかなか理解に頭が追い付かなかった。

「な、雷蔵!君ならどれを食べる?」
「…へ?」

またまた彼は。自分に迷い癖があるのを知ってこんな問いかけをする。だけど真剣に考えないのも嫌だから、やっぱりまた迷うことになるのだ。
ということで考える。さあどれだ。自分、八左衛門、三郎。味は全て同じだ。何を基準に考えたらいいのか。好きな人順か。でも三郎への好きと八左衛門への好きは違うから、また狂う。はてさて。
散々迷ったあげくに、自分から見て左の団子を摘む。これかな、と呟くと、彼は不満気に声を上げた。
「ええー!!雷蔵そこで自分の団子取んの!?」
「だって、八も三郎も食べたら可哀相じゃない」
「くっ…そんな雷蔵も好きだけど…」

返答からして、彼は彼自身の団子を取って欲しかったようだ。しかし自分が選んだのはこれなのだから仕方ない。そう言ってもまだぶうと頬を膨らます彼に、小さく溜め息をついた。じゃあ教えてあげよう。迷わずにふと浮かんだ確かな答え。

「三郎」
「…なぁに」
「あのね。…僕のお団子は、三郎に食べてもらいたいな。なんて」

思ったの。そう漏らすと、彼はしばらく動きを見せなかった。あまりに動かないので顔を覗いてみたら、それはもう真っ赤な変装名人がそこにいた。手で隠しているようだが全然隠れていない。

「真っ赤」
「雷蔵なんなの…可愛いからやめてよ。嘘やめないでやっぱりやめて」
「ええーどっち」

くすくす笑うと、彼はまだ赤味の引かない顔でちらっとこちらを見てきた。彼の睨む顔なんて怖くない。だが、いい加減お団子を食べようと自分に例えられたそれに手を伸ばした瞬間、皿を取られてしまった。

「お団子!」
「だめ!雷蔵の団子は俺が食べるの!」

どうしても皿を譲る気がないらしい。それでも、先程思い浮かんだ自分の小さな望みが叶えられるなら団子をあげてもいい気がした。


(八の団子はどうするの)
(兵助にでもあげる)





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