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「息苦しいなァ……」

 額に浮かぶ汗を拭いながら、物江はその場にしゃがみこんだ。

「物江四席、だらしないですよ」

 そんな物江とは対象的に、篁は一方を睨みつけたまま直立を崩さない。
 彼女の目線の先にあるのは、これだけ離れていても目視出来るほどの巨大な繭玉のような空間。東仙の卍解『清虫終式・閻魔蟋蟀』だ。あの空間の中では清虫本体を握る者以外の五感と霊圧知覚を奪う。護廷最強の死神更木であっても、あの卍解を前にして平常では居れまい。そう確信してはいるものの、やはり耐え難いほどの不安が襲う。例え僅かな霊圧の揺らぎも逃すまいと、篁は瞬きも忘れ其方を見つめていた。
 
 相変わらず騒がしい瀞霊廷内には、物江の言う通り息苦しい程の霊圧が渦巻いている。席官以下の隊員ならば、息を吸うだけでも汗が噴き出すだろう。それもその筈で、ほぼ同時に大規模な戦闘をしているのは東仙・狛村と更木、射場と斑目、檜佐木と綾瀬川。そしてーー。

「ーー阿散井副隊長と朽木隊長が、どうして戦り合ってんですかねぇ」

 篁の足元で、物江がポツリと呟いた。誰よりも鋭い針の如き霊圧と、荒々しい肉食獣のような霊圧。先刻から立つ地を小刻みに揺らしているのは、間違えようのない六番隊のそれだった。

「私語は慎んでください」
「でも、やっぱり妙ですよね。いくら朽木女史の処刑に疑問があるって言っても、更木隊と阿散井副隊長が旅禍側に付くなんて」
「物江四席」
「はい。篁さんは相変わらず手厳しい……」

 篁に目を峙てられ続けた物江がやっと立ちあがろうかと腰を持ち上げた。その時だった。薄い硝子の割れるような硬質な音とともに、突風が吹き荒ぶ。舞う土煙に目を伏せても、大きな霊圧の揺らぎを逃すことはなかった。
 
「ッ、東仙隊長!!!!」

 聞こえるはずもないのに、思わず名を叫ぶ。それとほぼ同時に、綾瀬川と戦闘していた檜佐木の霊圧も一瞬で感知できない程に微弱なものになった。

「三席! 行ってください!!!」

 物江が叫ぶ。それを聞いたか聞かずか、篁は既に強く地を蹴った。
 
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